第64章 魔性の女
「りょ、涼太ッ! なんでここに……!」
ビニール傘を差した涼太が、そこには立っていた。
え? 幻覚? ついにそんなところまできちゃった?
だって私、学校にいるとは言ってない!
「それはこっちのセリフっスよ、びしょ濡れでこんな重いモノ……何してんの」
「あ、あの、ちょっと探し物を」
「もう諦めて帰ろう。風邪引くっスよ」
諦める?
無理、絶対に無理。
「私、諦めない。絶対、絶対にある」
バサバサと、自棄になったようにゴミを漁る。
ない。どうして。
「……仕方ないっスね」
涼太はパチンと傘を閉じて、ゴミ袋を持ってきた。
「……何探してんの?」
「涼太、風邪引くからやめて、私ひとりで大丈夫だから」
「ふたりで探した方が早いっしょ。ね、何を探してるの」
いつもの頑固な涼太モード。
甘えちゃ、ダメなのに。
もう、ひとりでは限界が近づいていた。
縋りたかった。
「……ゆび、わ」
「ん?」
「……涼太が買ってくれた、指輪」
「え……」
「失くしちゃって……ごめんなさい。
探してるのに、見つからなくて……」
我慢していた涙がボロボロと零れ落ちる。
すぐに、雨と重なって流れていく。
「……落としちゃったの?」
涼太も濡れてしまっている。
顔に張り付いた私の髪を、優しく避けてくれる。
「わ、分からないの……ポーチに入れておいた筈なのに、なくって……」
「それなら、また代わりのを買ってあげるっスよ。今日は帰ろう?」
代わりの物?
「私は……残って探す。あれの代わりになるものなんてないの……!」
涼太がくれたあの時の思い出と、熱と一緒に、忘れられるものじゃない。
代わりがきくものじゃない。
「みわ……分かったっス。オレもやるから」
ズズッと鼻水を啜って、ゴミを開ける。
絶対に、諦めない。
更にいくつ開けたか。
バサッと中身をぶちまけた時、雨音に混じってしゃらん、という音が聞こえた気がした。
「……いま、音が」
「え? あったっスか?」
無我夢中で掻き分けた。
もう、何が捨ててあるのかなんてどうでもいい。
どこ。
地面に爪が引っかかっても、構わない。
とにかく、がむしゃらに掻き分けていった。
しゃらん
指に触れる、金属の感覚。
思わず掴んで、勢いよく引き上げた。