第64章 魔性の女
……見つからない。
丁寧にゴミ袋の中のゴミをつまんでは捨て、と繰り返している。
雨は時間が経つにつれて強くなる一方。
辺りには音がなく、耳に入ってくるのは雨がビニール袋に叩きつけられる音だけだ。
ジャージは水分を含んでずっしりと重くなり、体力をじわじわと奪っていく。
足元には、もう随分大きな水溜りが出来ている。
浸かっている部分の感覚が無くなってきた。
寒い。
動けない。
でも、絶対に諦めない。
絶対に、絶対に……
大切な大切な、私の宝物なの。
「いっ……!」
指を、何か硬いものが掠った。
何かの金属片。
人差し指を見ると、傷口から赤い血が流れ出してきた。
「いた……」
大丈夫、こんなのかすり傷だ。
後で絆創膏でも貼っておけばすぐ治る。
大丈夫。
見つかる。
ぜったいにみつかる。
ぜったいに、だいじょうぶ……!!
「これも、なかった……」
ゴミを袋に戻して、口を縛る。
その指にも段々力が入らなくなってきた。
まだまだ、残りは山ほどある。
明日の朝までに間に合うだろうか。
はぁ、とため息が出る。
だめだめ、ため息は幸せが逃げちゃうよ。
これも、涼太が教えてくれたこと。
急がなきゃ。
時間は残されていない。
次の袋は、何故かズッシリ重い。
中のゴミが水分を吸ってしまっているのだろうか。
「んっ……!」
だめだ、相当力を入れないと持ち上がらなそう……。
目を瞑って歯を食いしばり、思いっきり力を込める。
「ふんっ!」
気合いを入れて引くと、さっきあれだけ重かったのに、今度は軽々と浮いた。
思いっきり力を入れた反動で、後ろによろけてしまう。
疲労でフラフラになった足では、ブレーキがきかない。
「わっ、あ……っ!」
止まらない!
転ぶ!
そう思ったのに、後ろに傾いた身体は、何かに支えられて止まった。
……え……うそ……
「なぁにしてんスか、みわ」