第64章 魔性の女
「……くしゅん!!」
寒い。
ずっと雨に打たれているからだろう、体温がどんどん下がっていくのが分かる。
まだそんなに遅い時間じゃないはずなのに、この雨模様のせいで雲が厚く、あたりはもう真っ暗だ。
頼りになるのは電灯の明かりだけ。
もう既に軽く30個は開けている。
ない。ない。
……誰かが拾って、職員室に届けてくれたのではないか?
いや、それを確認するのはもう明日じゃないとできない。
その間にここのゴミを処分されたらアウトだ。
……絶対に見つかる。大丈夫。
……見つからなかったら、どうしよう。
さっきからこの感情がぐちゃぐちゃに絡み合っている。
どうしてあんな所に入れておいたんだろう。
どうしてちゃんとポーチに入ってるか、確認しなかったんだろう。
後悔ばかりが胸をよぎる。
バカ、バカ。
涙が滲んでくる。
ダメだ。泣いてたら見つかるものも見つからない。
絶対に見つけるんだ。
絶対に!
「……っくしゅ!!」
……今、何時だろう?
そんなに遅い時間じゃないと思っていたけれど、意外に時間は経っているかもしれない。
辛うじて小さな屋根がある所に置いた鞄からスマートフォンを出して確かめる。
「え……」
もう時間は22時を過ぎていた。
涼太からの着信、メール。
おばあちゃんからの着信。
皆、心配している。
でもまだ帰るわけにはいかない。
おばあちゃんには、遅くなる旨のメールを送る。
……涼太には、なんて言おう。
折角貰ったプレゼントを失くして。
そんな事はとても言えそうにない。
"忘れ物を取りに戻っていた"とだけメールした。
さあ、続きに取り掛かろうとした所で、振動音に気付く。
……おばあちゃんかな。
しまったばかりのスマートフォンを取り出すと、涼太からの着信だった。
どうしよう。
「……もしもし」
『みわ? 忘れ物取りにって、今学校?』
ああこの声、なんて安心するんだろう。
「……あ、そうだけど、もう駅に向かってる」
『明日じゃダメだったんスか? もうこんな時間なのに。オレ、今からそっち行くね』
「う、ううん、 来なくて大丈夫! もう帰るところだから! また明日ね!」
こんな所、見られたくない。
焦って電話を切った。