第64章 魔性の女
「無駄が多いと思います」
きっぱりと私は神崎先輩に言った。
「そんなに、朝から晩までバスケに費やす必要がどこにあるんですか?」
「……」
「私はバレー部のマネージャーをやっていましたが、普通ここまでやりませんよ?
こんなに毎日のように全ての練習のデータ取りなんて、やりません。普通」
先輩は知らないんだ。
普通、こんな事しませんよ?
頑張るだけ、無駄。
損なのに。
「……普通かどうかは正直わからないんだけど、私はこのチームで、全国制覇をするという夢を叶えたい。そのためなら、なんだってするよ」
理解出来ない。
そこまで自分を消費して、最後になにが残るのか。
「みわ、ちょっといいっスか?」
「あ、練習メニュー?」
「うん、あとテーピングお願いしよっかなって」
「うん、分かった。ちょっと取ってくるから、スズさんここで待っててね」
神崎先輩はテーピングを取りに行ってしまった。
黄瀬先輩とふたりきり。
チャンスだ。
「黄瀬先輩、先輩は無駄な事だと思いませんか?」
「ん? みわのやってることが?」
「そうです。1日何時間もかけて、ノートをまとめて。折角の貴重な学生時代、そんな事に時間を費やしている暇はないと思います」
「ふーん、そうっスか……」
「私、何か間違っていますか?」
「いや、そういう考えもアリなんじゃないスか? ただそんなマネージャー、一緒に全国目指そうとは思わないけどね」
「!」
「みわがどれだけチームの皆の精神的支柱になっているか、まあまだアンタには分かんないっスかね」
「そんなの、私だって……」
私だって、少し頑張ればそのくらい。
皆、私の事好きになるんだから。
私は、なんだってできるんだから。
「アンタもみわみたいなマネになってくれることを願ってるっスよ」
……私とあの女のどこがそんなに違うのか。
分かった。
私がさっさとナンバーワンになって、間違ったやり方を思い知らせてやるんだ。
「ふたりとも、お待たせ」
全部あんたの仕事を盗んで、居場所をなくしてやる。