第64章 魔性の女
あの後、念願の黄瀬先輩のウエイトトレーニングについて、今日の練習は終わった。
意外にも、黄瀬先輩はひとりしか彼女がいないらしい。
(ライバルは少ないに越したことないわ。楽勝)
「ありがとうございました」
「うん、お疲れ様。あとは大体、家に帰ってデータをまとめたり清書したりしてるよ。明日見せるね」
「……はい」
家に帰ってまで部活の事をやるなんて、信じられない。
(そんなん、どうだっていいのよ。黄瀬先輩と一緒に居られるなら)
ああ、また明日からが楽しみだ。
……昨日一晩攻略法を考えたけど、思った事がある。
(神崎先輩のような"恋人じゃない遊び相手"ってどのくらいいるんだろう?
この程度のスペックでなれるなら、かなりいるはず……)
隣で着替える神崎を凝視する。
(腰は向こうの方が細いけど、胸は私の方がある。お尻は……同じくらいかしら……)
その時、神崎が首元に手をやったのが見えた。
しゃらん
涼しい音と共に、襟元から出てきたのはネックレス。
(こんなカタブツそうな神崎先輩が、ネックレス? おまけに、指輪がついてる)
なんだろう。
興味がある。
彼女はそれを大事そうに小さなポーチに入れ、パタンとロッカーを閉めた。
「スズさん、先に体育館に行ってるね」
「あ、ハイ」
神崎が去った後、どうしても気になって彼女のロッカーを開け、先ほどのポーチを開けた。
しゃらん
よく手入れのされたネックレスだ。
大事にしているのが分かる。
指輪を手に取った。
まあ、そんなに安物というわけでもなさそうだけど、ブランド物でもないようだ。
ある程度見て、内側に文字が刻まれているのに気付いた。
(R to……? Rってもしかして、涼太のR?)
toの後のアルファベット……神崎先輩の下の名前を黄瀬先輩が呼んでたから、きっとこれは黄瀬先輩から貰った物なんだろう。
あの人、こんな贈り物に縋っているのか。
もしかしたら、何かの記念で買わせたのかもしれない。
黄瀬先輩、モデルもやってるしきっとお金あるだろうからなあ。
でも、彼女でもない女がこうやって大事そうにアクセサリーを持っているのは気にくわない。
バレないように、昇降口のゴミ箱に投げ捨てた。