第64章 魔性の女
スズサンね。
あ、やべ、あだ名でいいんだと思ったら、さっき言ったばかりの名字をすっぱり忘れた。
なんつってたっけ? スズムラ? スズカワ?
……まあいっか、みわに噛みついてるから名前くらい、と思って覚えただけだ。
スズサンでいいっつーんだからそれでいいだろう。
「黄瀬先輩は、付き合っている彼女はいるんですか?」
「いるっスよ」
「何人ですか?」
「ぶっ、ひとりに決まってんじゃねぇスか」
唐突すぎる質問に吹いた。
なんつー直球。
「そうなんですか? 黄瀬先輩なら、何人もいるのかと思ってました」
「オレ、どんな男だと思われてんスか……オレはね、ひとりの子を想うので精一杯っスよ」
「可愛い人ですか?」
「オレが今まで見た中で一番可愛い女っスね」
「モデルさんですか?」
「いや、一般人」
さっきからみわは顔を赤くして俯いている。
自分の事言われてんのが、恥ずかしくて仕方ないって感じっスか?
あー好き好き、その感じ。
いじめたくなる。
「黄瀬先輩は彼女さんのどこが好きなんですか?」
「どこって……うーん、言葉で表すのはなかなか難しいっスね……」
細かく言ってたら、夜が明けるまで語ってしまいそうだ。
「月並みだけど、全部。
もう彼女が愛しくて愛しくて仕方ない」
「……凄いですね、お会いしてみたいです」
「はは、意外と身近にいるもんスよ」
結構オレたちの関係って有名なのかと思ったら、新入生にはそうでもないんスね。
校内ではもう名物っぽくなってるけど……。
「じゃあ、彼女さんの嫌いなところは?」
「うーん、嫌いなとこがないっスわ。
だからホントに、全部好き」
ああ、でもこうして聞いて貰えるのは新鮮っスね。
もうどんだけでも語りたい。
「黄瀬先輩、私みたいな女はタイプですか?」
「ん? スズサン? 可愛いんじゃないスか?」
「ありがとうございます!」
「イイヒト見つかるといいっスね」
「いえ、黄瀬先輩、わたし、先輩の彼女に立候補してもいいですか?」
おお、これまた直球な。
みわがさすがに驚いて顔を上げている。
立候補、ねえ。
「いいけど、落選確実っスよ?」