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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第64章 魔性の女


「なんですか先輩、こんな所に連れてきて」

彼女があまりに大きな声で酷いことを言うので、思わず外に連れて来た。

夕陽が射し込む水飲み場。
蛇口に反射してキラキラしている。

……この空気には似合わない、かな。

「1軍から3軍までの仕事に、上下はありません」

「あります。3軍には黄瀬先輩はいません」

どこまでもそこに拘るのか。

「貴女の先程の発言は、頑張っている他のマネージャー全員、選手全員に失礼な言葉だってことを、自覚して欲しい」

「……は? 先輩こそ、意味が分かりません。
わたしは事実を述べたまでです」

「全員揃って、海常バスケットボール部は成り立っているんです。
それが分かるまでは、貴女に選手は任せられない」

レギュラーだって、ベンチだって、2軍、3軍の選手だって、マネージャーだって皆で力を合わせて海常バスケ部なんだ。

どこが欠けても成り立たない。

彼女は顔を真っ赤にして怒り出した。

「そんな事言って、黄瀬先輩を私に取られるのが怖いだけですよね!? ただの遊び相手である先輩が、後から来た私に追い抜かれるのが怖いだけですよね!?」

ますます話が飛躍してきた。
遊び相手って……。

「ちょっと待って。話がずれてます」

「ずれてません! 先輩は今の、チヤホヤされている状況を変えたくないだけでしょう!? 自分が独り占めしている気になっているだけですよね!?」

それは心外だ。

私はレギュラー以外の練習を見る時だって手を抜いた事などないし、チヤホヤされているなんて思った事もない。

でも、ここで感情的になっても仕方ない。
感情的になればなるほど、真実は見えなくなる。

「分かりました。貴女は、暫く私について下さい」

こうなったら、もう口で言っても無駄だ。
身体で分かってもらうしかない。

「……1軍ということですよね?」

「そうです。そこで、私と一緒に仕事をして貰います」

彼女はようやく満足げな表情になった。

「最初からそうすればいいんですよ。
先輩、黄瀬先輩を取られても文句は言わないで下さいね?」

足取り軽やかに体育館へ戻っていく姿を見送った。

……気を引き締めていかないと。

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