第64章 魔性の女
「なんか、凄いっスよね」
今日も今日とて、マネージャー希望者の山を見て、思わずため息が漏れる。
「あー、確かに去年よりも多いな」
「黄瀬効果だろ」
「ま、実際マネージャーになる子なんて、あの中の一握りだって」
センパイ達はしれっとそう言って、先に着替えて出てしまう。
オレも急いで着替えを終え、後を追った。
ランニング前に、軽く柔軟をしておく。
そんな時、少し高めの声が響き渡った。
「こんなの、納得出来ません!!」
ふと、マネージャーの山に目をやると、みわに噛み付くように向かっている女子が目に入った。
小柄でいかにも気の強そうな子。
あぁ、またあの子か。
「どうして私が2軍の先輩につかなければならないんですか! こんなの、誰が決めたんですか!」
ざわつく体育館内。
おいおい、大丈夫っスか?
「私が決めました」
みわはあくまでも冷静に返す。
「どうしてですか!? 私は唯一この中でもマネージャー経験があります! 納得出来ません!」
「キオタさんから学ぶ事がまだたくさんあるからです」
というか普通は大体3軍マネージャーにつくんだから、2軍から見れるのだって相当な好待遇だと思うが。
更に、キオタサンは……まあ、合宿で告白されたりと色々あったけれど、みわから信頼されて仕事もどんどん任されるようになっている。
あくまで彼女はオレに拘るのか。
浅はかだな。
「キオタ先輩から学ぶ事なんてありません!!」
静まり返る体育館内。
「神崎先輩はいいじゃないですか! 1軍のマネージャーだから!
2軍以下のマネージャーになる身にもなって下さい!」
……ぷちんとみわの何かが切れた音が聞こえたような気がした。
「……ちょっといいかな?」
みわは、彼女を連れて体育館を出て行った。
「お、おい早川、あれ止めに行った方がいいんじゃ」
3年生のセンパイ達が、心配で寄ってきた。
「いや、神崎に任せ(る)」
早川センパイも、1年みわと過ごして彼女の事はちゃんと分かっている。
あんなのに怯んでたら、海常マネのトップなんて、張ってらんないっスよね?