第64章 魔性の女
ぎゅっとオレの首にしがみついているみわ。
みわの息遣いを感じる。
あー、すげぇ興奮する、この体勢。
「ね、涼太……もう、おろして」
ぽそりとそう言うみわを、照明スイッチがある舞台袖で降ろした。
「ここ……前に、エッチな事したっスよね」
電気を消そうとするみわの後ろから、耳元で囁いた。
「ひゃ……っ! そ、そんなこと……っ!」
「あれ? みわ、耳真っ赤っスよ?」
ああ、懐かしいな。
去年の夏、まだみわを抱いてない頃。
お互いに手淫をして、慰め合ったんだっけ。
もう、彼女の熱を知ってしまったら、あれでは満足出来ない。
人間って、なんて欲深いんだろう。
「みわ、今日疲れたでしょ」
「あはは……そうだね、新入生に教えるのって結構大変」
「……ストレス解消してく?」
太腿を撫でると、びくんと大きく反応した。
「やっ、だ、大丈夫」
「……ふーん、そっか」
「……そーゆーことしたら、眠くなっちゃうの」
こんなに可愛い理由で断られるとは。
いっつも全力でオレを受け止めてくれるみわ。
「そっスね、ごめん」
今は、新しい環境になって大変な筈だ。
「愚痴はいつでも受け付けてるっスよ」
「……ありがとう」
昂る気持ちを抑えて、
唇を優しく重ねるだけのキスをした。
「なんか、強烈なコ入ったっスよね?」
「ああ、うん……ちょっと強めの子ね。
なんとしてでも涼太のサポートがしたいって」
ううーん、嬉しくない……。
ぜんっぜん、嬉しくない……。
「大丈夫なんスか?」
「うん、あれだけ強い意志を持って発言できるんだから、強い子なんだと思う。
色々覚えてもらえるんじゃないかな」
あれだけ過去に様々な悪意に晒されたにも関わらずみわは、汚れない。
人の悪口など、絶対に言わない。
優しい、本当に優しい子だ。
それが彼女のいいところでもあり、オレもそんな彼女が好きだけれど……。
心配だ。
ドロドロの悪意に呑み込まれてしまわないか。
危険に晒されるような事にならないか。
いつも、それだけが心配だった。