第64章 魔性の女
「ごめんね皆、お待たせ」
なんだかざわついている。
「神崎先輩、ああやって黄瀬先輩に触れたりって、私たちでも出来るようになるんですか?」
「私は今個別で整骨院で勉強させて貰っているからああやってやらせて貰ってるけど、皆はやらなくて大丈夫だよ」
「えー、触りたい……」
ボソボソとそんな声が聞こえる。
ふ、触れたりが目的の行為じゃないんだけどな……。
「つまり、マネージャーの中では神崎先輩だけが特別待遇って事ですよね?」
またあの子か。
グサリと刺さった。
特別待遇。
そんなつもりは全くないんだけれど……。
いやでも、他のマネージャーから見ればそうなんだろう。
「うーん、特別待遇っていうか……任せて貰っているお仕事は多いかな」
「神崎先輩は、何がそんなに凄いんですか?」
直球のボールがガンガン飛んでくる。
何が凄いかって……。
「別に、他のマネージャーと比べて何が凄いとかっていうのはないよ」
「じゃあどうしてずっと1軍のマネージャーなんですか? 他の人にも譲るべきです。独占して、ずるいと思いませんか?」
どうしてそうなるの?
ずるいって……そう言われても……。
「マネージャーの配置は監督からの指示だからなんとも言えないけど……」
「じゃあ、わたしから監督に進言します」
ピシャリとそう言い放って、彼女は黙ってしまった。
やっぱり私では後輩をまとめるのは無理なのかな……。
「神崎ー!」
早川先輩だ。
「はい! ……呼ばれたら、すぐに向かいます」
落ち込んでちゃいけない。
毅然とした態度で、先輩としてちゃんと仕事を見せるんだ!
しかし、やっぱり教えながら仕事するって大変。
「ありがとうございました!」
「今日は皆、お疲れ様。ゆっくり休んでね。
もし可能なら、明日からは朝練にも顔を出してみて」
顔から覇気が消え失せた彼女たちが少し心配。
「慣れるまでは疲れると思うから、あんまり無理しないでね」
そう言って解散すると、後は自分の残った仕事だ。
もう体育館内のモップがけは終わってしまった。
私が最後に電気を消して施錠して出れば良い。
なんか……疲れたな……。
今日とった皆のデータに目を通そうと、壁に寄りかかりノートを開いて……
そこから記憶がなかった。