第63章 変化と進歩と計略と
「りょ、涼太、も、やめて……!」
涼太の胴体にしがみつくと、驚くほど力が抜けている。
普通、こういう時はカッとなって力が入ってしまうものではないのか。
冷静に、無駄なく相手を一撃で仕留めようとしているかのようで心底恐ろしかった。
いや、逆かもしれない。急所をわざと外して地獄の苦しみを味わわせようとしているのか。
「みわ、離して」
「だめ! 離さない!!」
どうしたら、どうしたら止まってくれるの。
涼太、お願いだよ……!!
涼太が私の存在など御構い無しにマクセさんの胸倉を掴んだ。
涼太が少し前かがみになっている、今だ。
私は涼太の胴体に巻きつけている腕を外し、彼の正面へ移動した。
身長差がなくなっている今しかない。
「りょうた……!」
強引に涼太の頭を引き寄せ、唇を重ねた。
「……っ!?」
一瞬目を見開いて驚いた涼太。
私は、勢いのまま口内へ侵入する。
「んっ、んく、っ」
ああ、上手く舌が絡まない。
涼太の頭を捕まえて舌を強引に差し込んでも、無駄にピチャピチャと音が響くだけだ。
涼太、お願い。
冷静になって。
もはや今願うのはそれだけだ。
涼太。
すると、それまで何も反応を見せなかった涼太の手がマクセさんを離し、私の顎を掴んだ。
マクセさんがゲホゲホと咳き込む声がする。
長い舌がぬるりと侵入してきた。
先ほどまで涼太の口内に居た私の舌も押し戻され、私の口内でまとめて蹂躙され始める。
「んぁ……う」
いつの間にか顎に添えられていた涼太の右手は私の後頭部にまわり、左手は力強く腰に回っている。
動けない。
涼太を止めなければならないのに、襲い来る快感に、私の身体の自由が奪われていく。
「……ぁ、んん」
突然の感覚に頭がショートしそうになっていると、涼太が口を離して微笑んだ。
「っは……参ったっスね……」
口調はいつもの彼だ。
「涼太、もうやめて、お願い」
「……みわに免じて、今日は見逃してやる。
次に同じ事したら、命はないと思え」
腕の中はこんなにも温かいのに、凍てつくような言葉が恐ろしい。
「……すまなかった」
マクセさんは、そう言って深々と頭を下げていた。
私達がエントランスに消えた後も、ずっと。