第63章 変化と進歩と計略と
「……もうすぐ着くが、どこまで送ればいい?」
車は高速を降り、すっかり車通りの少なくなった一般道を走っている。
もう随分見慣れたところまで帰ってきた。
「あ、学校で大丈夫です」
「いや、もう日も変わっている。家まで送るよ」
「……あの」
「黄瀬君にも連絡しておくといい」
「……はい」
言われた通り涼太にメールをし、道案内をして涼太のマンションの前まで走って貰った。
「あ、そこの角を曲がって……」
「あのマンションだね」
なぜ分かるのだろうと思ったら、エントランス前には、すらりとした長身に夜目でも分かる黄色の髪。
涼太が立っていた。
ざっくりとした白いセーターに、下は黒い……暗くて見えないが、部屋着だろうか?
エントランス前に車は停まり、マクセさんに促されて外へ出ると、涼太に強く腕を引かれた。
「りょッ……!」
瞬間、彼の匂いが飛び込んでくる。
白いセーターの胸の中へ閉じ込められていた。
「……みわ、先に部屋に入ってて」
しゃらんと、鍵を手渡される。
冷たい、怒っている声だ。
「あ、でも荷物がまだ」
「オレが持って行く」
普段の彼からは想像も出来ないほど、思わず背筋が凍るような怒気を含んだ声。
その迫力に何も言い返す事が出来ず、マクセさんにお辞儀だけを返してエントランス内へ入った。
角を曲がるフリをして、こっそりとふたりの様子を窺う。
車から降りてきたマクセさんと涼太が何かを話している。
暫く会話をしていたと思ったら……突然涼太がマクセさんを目一杯殴り飛ばした。
隠れていた意味もなく、その姿を見てすぐに涼太の元へ駆け出してしまった。
「涼太ッ! マクセさんッ!」
マクセさんは頬を押さえて座り込んでいる。
口の端からは真っ赤な血。
「だ、大丈夫ですか……!」
床に飛び散った血の跡を追うと、白い小さな塊が転がっていた。
あれは、折れた歯。
「マクセさん、歯が」
「……歯1本で許して貰えるなら安いものだよ」
「おい、立てよ」
涼太の怒りはおさまっていない。
ジリジリとにじり寄ってくる。
「涼太! もうやめて!」
迸る怒気はもはや狂気のよう。
普段は優しく包んでくれる大きな胸が、物凄く恐ろしいものに見えた。
私は、無我夢中でその逞しい身体に抱きついた。