第63章 変化と進歩と計略と
悲しい、なんて悲しい話。
愛しているひとに二度と会えないという悲しみを上回るものなどあるのだろうか。
マクセさんは、これからそれをどうやって乗り越えるのだろう。
ふたりとも、暫く会話は無かった。
車内には、私が鼻を啜る音だけが響いていた。
ようやく前方に、事故現場らしい場所が見えてきた。
「……すまない。キミに謝らなくてはならない事がある」
そんな中、突然の話。
神妙な口調だ。
「……なんでしょうか」
「昨日、キミに触れた」
……言われた言葉の意味が分からずに、暫く固まってしまった。
私に?
触れた?
……マクセさんが?
「酔い潰れたキミを部屋に帰そうと……その時に、黄瀬君の名前を愛おしそうに呼んだキミに、……キスをした」
それは、まさかの告白。
「え……!?」
「キミの……身体にも、触れた。衝動的だった」
突然の話に、ついていけない。
どうして?
なんで?
「言い訳するつもりはない。
愛している人に名前を呼ばれる……俺は、黄瀬君に嫉妬しただけだ。申し訳ない事をした。反省している」
マクセさんは、頭を深々と下げていた。
なんて悲しい理由なんだろう。
込み上げてくる涙をぐっとこらえた。
このひとは、きっと同情なんて必要としていない。
「あ、頭を上げてください……」
「……最中に、黄瀬君から電話があって思い留まった。最低な事をした。本来ならこうしてキミと話せる資格もない」
「も、もう……いいです……大丈夫ですから……!」
パッパーと、クラクションが響く。
「あっ、マクセさん! 車が」
事故現場を抜けると、先ほどまでの渋滞が嘘のように、車は流れ出した。
「……すまない」
一言そう告げたマクセさんと私の間には、それ以降会話は無かった。