第63章 変化と進歩と計略と
「電話しても構わないよ」
「いえ、メールを返しておきます」
流石にこんな密室で個人的な電話をするのは気がひける。
"ごめんなさい。関越道が凄い渋滞で、立ち往生してしまっています。帰るの、遅くなるかもしれないので、今日は会うのやめておこうか"
送信……っと。
「気にしなくていいのに」
「いえ、大丈夫です。すみません」
数秒後、私のスマートフォンが激しく振動しだした。
涼太からの着信。
「え、ええ……なんで電話……」
「……構わないよ」
マクセさんは笑いをこらえながら言った。
「も、もしもし」
自然と声が小さくなる。
『みわ? まだまだかかりそう?』
「あ、うん……さっきから全然動いてなくて」
『何時でもオレ、待ってるから』
「え、明日でもいいよ。遅くなったら……」
『待ってる』
「……うん、わかった。また、連絡するね」
『みわ』
「うん?」
『……好きだよ』
「!」
プツッと、通話は切れた。
「ラブラブだな」
くっくっくっとマクセさんは笑っている。
「……子どもの、やり取りだと思いますか?」
「いや? 全く思わないな。
むしろこんな若い内から守りたいものが出来るなんて、羨ましい限りだ」
「そ、そうですか…」
そう言われるとそれはそれでなんだか恥ずかしい。
「家族の事は、黄瀬君には話しているのか?」
「……いえ、なんとなく言うタイミングが無くて」
「大事な人には言える内に言っておいた方がいいよ」
なんだか、実感の篭った発言だ。
「マクセさんは、ご結婚を……されているんですよね?」
彼の左手の薬指には指輪があるから、きっと奥様がいらっしゃるのだろう。
「いや、独身だよ」
「え?」
まさかの返答に、失礼ながら凄く驚いた声を返してしまった。
「あ、これから……される予定……なんですか?」
「ああ、これかい?」
ハンドルから左手を上げた。
宝石こそついてはいないが、キラキラしてキレイな指輪だ。
「……結婚前に亡くなってね」
「え……っ」
「あの時から俺の人生には光が無くなった」