第63章 変化と進歩と計略と
「ふう……これで、とりあえずはまとまったっスかね……」
最後の段ボールにガムテープでフタをした。
今日、寮の空きが出たという知らせを受けた。
ギリギリまで住んでいた3年生がどんどん退寮していくからだろう。
しかし、同時に新入生も入寮してくるため、なかなか空きが出る事がなかった。
数多くの申し込みになった場合は、実家が遠方の人間が優遇されるようになっているため、実家が東京のオレにはチャンスがなかったのだ。
慢性的な寮不足を解消しようと増設も計画されているようだが、着工、完成までにはまだ何年もかかるだろう。
金を貯めなければ。
数ヶ月の短い間とはいえ、みわと過ごしたこの部屋を引き払うのはやはり気が進まない。
しかし、この後の人生の事を考えて、今の内から少しずつでも貯金をしておきたいという気持ちが出てきていた。
自分のことしか考えていなかったオレが、まさかこんな風になるなんて。
今日実家に顔を出し、その話をした時には父も母も驚いていた。
母の目が少し潤んでいたのも、気のせいではないだろう。
親にはやはり心配をかけてしまっているのだなと気付かされた。
「……みわ、連絡ないっスね……」
夜寝る前に、マクセサンから様々なレクチャーを受けていると聞いている。
まだ終わっていないのだろうか。
確かに、みわのバスケバカパワーが発揮されてしまうと、彼女の話はちょっとやそっとじゃ終わらない。
オレのいないところで……とまた醜い嫉妬心が顔を出すが、みわに悪気はない。
いい加減子どもじみた事は控えないと。
大人しく連絡を待つか……。
グビッとスポーツドリンクを口に含んだ。
……。
…………。
なんとなく、嫌な感じがする。
胸焼けにも似たこの感覚。
なんとなくだ。
野生の勘的なものだろうか。
スマートフォンを手に取って、みわへ電話をかけた。