第63章 変化と進歩と計略と
やはり今日は飲み過ぎた。
最後の夜だと言うことで、他のトレーナーや監督達と少々羽目を外してしまった。
それが、まさかこんなことになろうとは。
指で優しく中を探っているが、彼女は黄瀬の名前を呟いてから、一切の反応を見せない。
微かに、寝息が聞こえている。
呼気のアルコール臭から、相当飲まされた事が想像できた。
先ほどレストランで彼女に飲ませ、性的な行為をしようとしていた彼らに強い怒りを感じた筈なのに、当人の俺が何をしているんだ。
先程彼女が黄瀬の名前を呼んだのは、恐らく俺の指を黄瀬と勘違いしたわけではない。
彼女は、こうして愛撫をしてくる相手は黄瀬以外には居るはずがないと、疑いもしていないのだろう。
最低な事をしているという罪悪感と、不可侵領域に踏み込んだという背徳感がない交ぜになっていた。
自分が与える快感には、どうやって反応するのだろうか。
喘ぎ声が聞きたい。
この指を激しく動かしたら起きるだろうか……そんな事を考えた瞬間、神崎のスマートフォンが激しく振動した。
咄嗟に指を引き抜き、スマートフォンを手に取るとバスルームに駆け込んだ。
何をそんなに焦っているんだ。
生半可な覚悟でやっていい事じゃないだろう。
手の中にあるスマートフォンを見ると、"黄瀬涼太"の文字。
熱くなった頭がすうっと冷めていくのを感じた。
「……もしもし」
『なんでみわの携帯にアンタが出るんスか』
噛み付かんばかりの声だった。
毛を逆立てて怒る動物ばりの。
「……すまない、俺の監督不行き届きで、みわちゃんが酒を飲まされてしまって」
『なんだって?』
「今、部屋まで送ってきたところだ」
流石に、自分の部屋でひん剥いて指を突っ込んでいた、などと言えるわけもない。
『アンタがそばにいながら、なんでそんな事になってんスか。
……アンタの事信じて、みわを任せたんだぞ』
自分の頭の中の警告なんかよりも、ずっと効く言葉だった。
「…………すまない」
心の中に後悔の念が拡がっていく。
「………………本当に、すまない」
『……みわの近くに居られるのはアンタしかいないんだ。
頼むよ。明日まで、ちゃんと……守ってくれよ』