第63章 変化と進歩と計略と
「座って。今、水を出すから」
自分の部屋に入ると、DVDを再生するよりも先に、小さな備え付けの冷蔵庫の中から、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
酒に強いとはいえ、しっかり飲んでおいた方がいいだろう。
「気分は悪くないよな……?」
イスに向かっていく彼女を見て、異変に気付く。
神崎は千鳥足になっていた。
「お、おい……!?」
まさか、歩いて酔いが回ってしまったのか?
ふらふらと数歩歩いて、ベッドに倒れこんでしまう。
「あの一杯だけじゃなかったのか?
何杯飲んだ?」
「ん……」
軽く身じろいだだけで、返事はない。
しまった。今夜はもうやめておくべきだったか。
急性アルコール中毒が心配だ。
「ほら、飲んで」
急いで水を飲ませた。
「ん……げほ、げほ……も、いいです」
「だめだ。全部飲みなさい」
「うぅ……」
結局、ペットボトルの水を飲ませるのもかなり苦労した。
……この状態の彼女を部屋まで帰すのは更に骨が折れそうだな。
眠ってしまう前に移動させないと、厄介だ。
「みわちゃん、部屋に戻るよ」
そう言って彼女の身体を起こすと、それまで黙っていた彼女の口からたった一言が漏れた。
「りょう……た」
しっとりと誘うような甘い、甘い声。
なんて声だ。
その一瞬で、背筋がぞくりと痺れた。
ふわっと髪の毛から香る匂い。
柔らかい腕。
ぽってりとした果実のような、艶やかで厚めの唇。
気付けば、次の瞬間にはその唇に自分の唇を重ねていた。
十数秒しっかり唇を合わせてから、ハッと我に返る。
何をやっているんだ、俺は。
甘い。
重なった唇が、溶けそうだ。
「……ん……いや……」
腕の中の彼女が小さな抵抗を見せる。
焦って唇を離した。
……殆ど意識はハッキリしていないのに、相手が"彼"ではないという事が分かるのか。
何故か、胸がチリリと灼けるような感覚に陥る。
やめろ、何してるんだ。
頭の中に真っ赤なランプと警告音が鳴り響く。
先ほどのキスは完全に勢いだったが、今度は確実な意思を持って唇を重ねた。
小さな口を開かせ、欲望に塗れた舌を突っ込む。
絡み合う舌が、熱かった。