第63章 変化と進歩と計略と
合宿4泊目。
マクセさんの質問に、やはり答えは見つけられない。
きっと、夢や目標を持てということなんだろう。
それはわかる。
でもそんなもの、持てた試しがないのに突然言われても……。
不安な気持ちが拭いきれないまま、レストランでの夕食をとっていた。
最後の一口を口に運んだ時、元気な声が響く。
「神崎ちゃん! こっちにおいでよ!」
選手の皆さんが呼んでくれている。
4人がけのテーブルに、3人で食事をしているようだ。
「は、はいっ!」
私は慌てて飲み物を持って席を移動し、バスケについての話を聞かせて貰った。
少し気が紛れる。
考えなければならないのは分かっているけれど、脳みそは悲鳴をあげていた。
「月バス見たよ。海常全国4位なんて、大したものじゃん!」
「ありがとうございます!」
「凄い選手が入ったんだよね。黄瀬クンだっけ? ポイントガードの笠松クンもいい選手だったよね」
「はい、3年生が抜けてしまったので、今は新チームをどう育てるかという事に重点を置いています」
「選手が混じる事はあるけど、こんな風にマネージャーだけが合宿に来るのなんて初めての事だよ。期待、されてるんだね」
期待……
されているんだろうか……。
「あ、神崎ちゃん飲み物ないじゃん。頼んであげるよ」
「あ、す、スミマセン」
追加のオーダーって、別にお金かからないのかな。
合宿にお邪魔させて貰っている身としては、贅沢はしたくないんだけど……。
「女子高生って普段何して遊ぶの?」
「……すみません、普段は部活と勉強ばかりで……特には……」
残念ながら、彼らが期待している"女子高生"とは程遠いのだ。
「そうかー、いいね、青春だね。今しか出来ない事だからね、やれるだけやるといいよ」
「カレシとかいないの?」
「あ……一応、います」
「へえー! イケメン? あ、飲み物きた」
オレンジ色の液体が入ったグラスだ。
底の方が少し紫色になっている。
「ありがとうございます。……ミックスジュースですか?」
「カシスオレンジって言ってね、オレンジジュースにカシスが混ざってるんだよ」
「頂きます」
口にすると、今まで飲んだ事のない味がした。
オレンジジュースに、カシスの香りが混じっている。
美味しい。