第63章 変化と進歩と計略と
「ごめんね涼太、昨日寝てしまってて」
マクセさんとの勉強会も終わり、部屋に戻って一息ついてから、スマートフォンを手に取った。
答えはまだ、出そうにない。
『オレも初日、電話中に寝たからおあいこっスね。
お疲れ様。どう?』
「……うん、色々な事教えて貰えて、凄く勉強になってるよ」
『みわ、なんか嫌な事あった?』
どきりと心臓が嫌な音を立てる。
息が乱れないようにするのだけで一苦労だ。
「ん? どうして?」
『いや、声に元気がないなって』
鋭い。
このひとは、こういうところが本当に鋭いんだ。
「そんな事ないんだけど、さすがに朝から晩まで色々な事詰め込みすぎかな。頭がパンクしそうだよ」
『…………』
「涼太?」
『……オレじゃ力になれない事?』
グッと心臓を鷲掴みされたような感覚。
胸が、苦しい。
口が、酸素を求めてぱくぱくと動きを繰り返している。
涼太に、誤魔化しは通用しない。
必死に取り繕った嘘なんて彼の耳には入っていない。
それはこの状況ではすごいピンチな事なのに、なんだかとても救われたような気持ちになってしまった。
「……そうじゃないの。自分で、乗り越えなきゃいけない事だから。ごめんなさい……」
一拍の間。
『そっか。うん、分かったっス。じゃあ、無理強いはしない。
でも、もうダメだと思ったらちゃんと相談して』
このひとはどうしてこんなにも強いのか。
しなやかで柔らかくて、それでいて強い。
支えたい。
このひとの役に立ちたい。
ずっと隣にいたい。
これまでずっと思っていた事なのに、今はそれが途方もなく遠く不可能な事に感じる。
「ありがとう。出来るところまで頑張ってみる」
『会えるのは明後日の夜か……遅かったらその次の日の朝っスかね。寂しいけど、頑張るっスよ』
「うん、がんばろ。ご飯ちゃんと食べてる?」
『食べてるっスよ〜。ひとりなのがもう、味気なくって。
みわ、食事はどうしてるんスか?』
「今は宿泊先のレストランでひとりで食べているよ。
交流を……とは思うんだけど、なかなか勇気が出なくって」
涼太と他愛の無い話ができて、ホッと気分が楽になった。