第63章 変化と進歩と計略と
「黄瀬……涼太の、存在に……」
「これで黄瀬君がバスケを辞めると言ったらどうする? 怪我をして明日にはバスケが出来なくなったらどうする?」
涼太が
バスケを辞める?
出来なくなる?
勿論、その可能性はあるだろう。
卒業後にどうなるかなんて、きっとまだ本人ですら分からないのだろうから。
でも、涼太にはバスケがなくなったとしても沢山のものがある。
「彼は彼自身で、その先の未来を決めるだろう。彼は素晴らしい素材だ。どんな世界でも輝いていける」
それは、十分に理解している。
涼太の魅力、私はよく分かっている。
「だが、キミには何も残らない。今のキミに、何もないからだ」
私には、何もない……。
「キミは、健気にただひたすら頑張っていれば、ただそれだけでヒーローの役に立てると思っているのかい?」
「……そ、それ、は……」
「オレはキミと居て"キミ"が見えない。
キミは自分自身に価値を見出して、自分自身を育てる事をしなければならない」
自分自身に、価値を見出す……?
「強い人間。それが、黄瀬涼太の隣にいるものの最低条件だと思う。
人は、守るものがあれば強くなれる。しかし、それが大きければ大きいほど、足枷にしかならないんだ」
「だ、だからこうして……色々な事を教えて頂いて……います」
口の中がカラカラに渇いている。
「バスケについては、だね。で、最初の質問だ。この経験を経てキミはどうなりたい?」
私が
どうなりたいか。
「……強く、なりたいです」
マクセさんは、大きなため息をついて頭を左右に振った。
「"強さ"を履き違えるんじゃない。
今の空っぽなキミのまま頑張っても、彼ありきのキミのままでは、いつか彼の負担になるという未来しかないんだよ」
…………。
「厳しい事を言ったが、キミに実力と才能があるのは間違いない。
キミがいつまでも彼の隣に居てくれることを願うよ」
「わ、私……」
「……顔色が良くない。今日はもう休みなさい。
寝不足の頭では考えるのも困難だろう」
マクセさんに促されて、部屋を出た。
歩いているはずなのに、足元のカーペットの感覚がない。
ふわふわと、浮いているみたいだ。
私はどうなりたいのか。
私に、未来があるのか。
分からない。