第63章 変化と進歩と計略と
「キミは自分を軽視しすぎだ。
このままじゃ、必ず黄瀬君の負担になる日が来るよ」
その言葉に、心臓が止まるかと思った。
早鐘のように打っている。
「……彼の、負担に?」
私が?
「やはりキミにはこの言葉が一番効くみたいだね。
キミは選手がコーチと二人三脚だというのはよく分かっているよね」
「……はい、分かっている……つもりです」
「そうだね。オリンピックなんかでも、勝った時や負けた時には必ずコーチと抱き合う、そういうシーンが抜粋されるものだ」
私の頭の中でも、そのシーンが流れた。
「……はい……」
でも、それはコーチの話だ。
うちで言うならば、監督だろうか。
「そこに映っているのはいわゆる表舞台なわけだが、選手がそこに立つためにはもっともっと沢山の人の協力が必要になる。
トレーナー……部活動で言うなら、キミのようなマネージャーもね」
「……はい」
「一流のトレーナーは、それこそアスリートと同等の価値があるとされているんだよ」
「それは……凄いですね」
そんなひともいるのか。
世界は、広いんだな。
「キミの到達点は?」
「……え?」
「"キミは"どうなりたいんだい?」
なに?
どういうこと?
「"キミの"未来はどこにあるんだい?」
……。
わたしの、みらい?
「今キミが持っている"黄瀬涼太の力になりたい"という気持ちは、紛れもなく本心だろう。それは否定しない」
涼太の力になりたい。
勿論、本心だ。
私には、その気持ちしかないから。
「その気持ちは、選手とトレーナーが支え合う上で絶対に必要な気持ちだ。それがなくては話にならない」
押したり、引いたり。
この話の流れに、不安が煽られる。
「でも、キミ自身のビジョンは?
キミはどんな姿で、彼を支える?」
言語としては理解して頭に入ってきている。
なのに、それに対する返答が一切浮かんでこない。
「ハッキリ言おう。キミは今、"黄瀬涼太"という存在にぶら下がっているだけだ」