第63章 変化と進歩と計略と
「もしもし、みわ? 今、時間大丈夫っスか?」
『お疲れさま。大丈夫だよ』
重い気持ちをなんとかしたくて、思わずみわに電話をかけた。
本当は部屋に戻ってからかけようと思っていたけど、一刻も早く声が聞きたくなった。
「まず合宿所がフツーの旅館な上、温泉とかあって驚いたっス」
『そうなんだ! ゆっくり出来そうなら良かった。練習はどう? 皆はどう?』
興味津々でそう聞いてくるみわに、今日の練習内容と、自分が感じたままを素直に伝えた。
電話の向こうでは、メモを一所懸命に取っている気配がする。
相変わらず、オレに負けないバスケバカだ。
ほっとする。
「あー……あと、マネージャーに……ちょっと冷たい言い方しちゃったんスよ」
告白されて断った事は……敢えて言う事もないか……。
『あ、さっき練習後に電話があったよ。詳しくは言ってなかったけど、涼太には凄く感謝してるって』
「あ、そうスか。なら良かった」
『さすがだね』
「ん?」
『涼太は皆の光だから。困った時に、道を照らしてくれてるんだ』
「何それオレ、懐中電灯?」
ころころと楽しそうに笑う声が聞こえる。
『違うよ! 言うなれば……灯台?』
「灯台……っスか」
どうにもピンとこない。
『私は……涼太の影になりたい』
影。
"ボクは影だ"
黒子っちは、火神っちにそう言ったという。
みわが言うそれがどういう事なのか、何を意味するのかは、正直分からない。
「……みわも一緒に光になってよ」
『あははっ、それは無理だよ』
「みわは時々難しい事言うから分かんねぇんスよ」
『そんな難しい事言ってないよ』
まあ、影でもなんでも、オレと一緒にいてくれるならいいや。
たいして気にも留めず、ふたりで笑った。
この時、ちゃんとみわの気持ちを聞いておけば、オレの気持ちを伝えておけば、もっと違った未来になったのか?
今になって、思うことがある。
でも、過去を後悔したってもう、戻れない。