第63章 変化と進歩と計略と
「みわはいつも言ってるんスよ。
"いきなり出来るわけじゃないし、いきなり強くなれるわけでもない。こういうのは繰り返す日々から身についていくものなんだ"って」
好きな曲の歌詞だけどって笑ってたけど、彼女はそれを実行して全て身につけてる。
「黄瀬君……」
「何にもしないうちから、甘ったれてんじゃねーよ」
凍りつくその場の空気。
ヤバい。
言ってしまった。
笠松センパイが乗りうつったんだろうか。
(こんな事言ってたらシバかれるっスね)
オレらしくもない……。
あー、もうこれでこの子は辞めちゃうかななんて思ったが、彼女はごしごしと目を擦り、すくっと立ち上がった。
「ごめんね、黄瀬君。ありがとう!」
オレが渡したペットボトルを持って、体育館へ走って行った。
……ま、みわが大丈夫って見込んだコなんだから、大丈夫か。
「やべ、オレも戻んねーと」
体育館に戻ると、先ほどの監督とマネージャーが何やら話をしている。
その後、皆と同じように練習に参加していたので話は通ったのだろう。
とりあえず、一安心っスかね。
「あー!! 生き返るっスー!!」
熱めの湯が張った浴槽に浸かり、ついつい声を漏らした。
いやむしろ叫んだ。
疲れ切った身体がじわじわとほぐれていくようだ。
じい……っと自分の身体を見下ろす。
身長も、体重も青峰っちくらいは欲しい。
欲を言えば身長はもっと欲しいけど……。
大胸筋に6つに割れた腹筋。
見慣れた身体ではあるが、やはり物足りない。
圧倒的に肉体の仕上がりが違う。
まず第一に感じた事だった。
それに、ひとりひとりの選手のプレーの質。
そりゃあ、サークルとは違って遊び半分の人間はいないし、皆高校からそれなりの成績を残してきた人間ばかりだろう。
たった数年……
…………考えないようにしていた後悔の念がまた湧き上がってきた。
なぜ、もっと早くバスケを始めてなかったんだろう。
中2でバスケを始めたオレは、常にこの思いに付きまとわれた。
悔やんだって仕方ない。
過去には戻れないんだから。
これから、間違えなければいい。
バスケも、大切なヒトの事も。
バシャンと熱いお湯を顔にかけて、揺れそうになる気持ちを振り払った。