第63章 変化と進歩と計略と
「……おー……これはまた……」
目下に広がるのはかなり豪華な旅館。
こんな合宿なんかではなく、みわと旅行で来たい場所だ。
「お前ら、荷物置いてこい。
すぐに体育館に移動するぞ」
「はあ……」
荷物置いてこいったって、まだ部屋がどうなるかすら分かってないんスけど……。
「あっ!」
マネージャーが大声を上げ、周りの皆がビクッと反応した。
「す、すみません! わたしがフロントに行かなきゃいけないんでした……!」
パタパタと走っていってしまった。
ああそうか、いつもはみわがやってくれてたのか。
まあ、不慣れなんだから仕方がないだろう。
当たり前のように任せてしまっているオレたちもいけない。
今度はフロントに行った彼女がキョロキョロと困っている様子。
「どしたんスか」
「あ、き、黄瀬君、どうしよう」
「お客様、誠に申し訳ございません!
今朝からの設備不良で、大きなお部屋が現在使用不可となっておりまして……!」
「ありゃ」
「大変申し訳ございません! 修理が終わり次第すぐにご案内をさせて頂きますので、一先ずは空きのある少人数のお部屋へのご案内となりますが、よろしいでしょうか……」
「ああ、いいっスよ」
どうせ、これから練習だ。
夜までには直っているだろう。
「ご、ごめんね黄瀬君……ありがとう」
「いいっスよ、大したことじゃないし」
オレはフロントで鍵を受け取り、センパイ達に事情を話した。
「まあ、多分帰ってきたら直ってると思うんで、今はひとつの部屋に全員分荷物置いとけばいいんじゃないかなって思うんス」
「おう、そうだな」
3人部屋の鍵を1つと、2人部屋の鍵を2つ受け取ったが、とりあえず大きな荷物は3人部屋に置いて、練習へ向かうことにした。
車に乗ろうとすると、マネージャーが申し訳なさそうに佇んでいる。
「黄瀬君、ごめんね。わたし、最初っからこんなんで……」
「ああ、いいって。別に誰のせいでもないし。
最初なんだから、仕方ないっしょ」
ペコペコと謝り続ける頭をポンと撫で、車に乗り込んだ。