第62章 卒業
「みわと黄瀬さんは、卒業したら結婚するのかい?」
突然のおばあちゃんの発言に、ぶっとお茶を吹いてしまった。
「みわ……前にも言ったけど、下品よ」
布巾で慌ててテーブルを拭う。
「ご、ごめんなさい。
でもおばあちゃん、いきなり何言うの!?
そ、卒業したらって、まだ10代なのに!」
「あら、法律では女性が16歳、男性が18歳で結婚出来るのよ?
まさか知らないわけじゃないわよね?」
「そ、それは知ってるけど……」
折角涼太が来てくれているのに、やめて欲しい。
気を悪くしてしまったらどうするの。
「ねえ黄瀬さん。黄瀬さんだって考えるわよねえ」
「もう! やめてってばー!!!」
「……そうっスね」
涼太は、少し微笑みながらも真剣な瞳でそう言った。
……え?
「も、もうやめてよ! そういうこと言うの!
涼太が困るでしょう!?」
おばあちゃんも涼太もくすくす笑っている。
もう、ふたりしてからかって……。
「そうだ、丁度いい機会だから話しておきたいんスけど」
涼太が神妙な面持ちで口を開いた。
「はい、どうぞ」
おばあちゃんがその硬い言葉をしなやかに受け止める。
「オレ、今住んでる部屋……時期を見て出ようと思って」
「……え?」
なんの、話?
「学校の寮の申請出して、寮に入ろうと思ってるんス」
「え、あ、そう……なんだ」
そんなの、初めて聞いた。
一緒に過ごしたあの部屋。
引き払っちゃうんだ。
当たり前だよね。タダじゃないんだから。
「あら、去年ひとり暮らしを始めたばかりよね?
何か理由でもあるの?」
おばあちゃんは私が聞けないことをすんなりと聞いてしまう。
「あ……ハイ。金、貯めようと思って」
お金……?
涼太、今までモデルのお金だってロクに使ってないって言ってたのに。
何か必要になってしまったのだろうか。
もしかして、ご家族で何か……とか?
「涼太、何か困っていることがあるの?」
「ん? 別にないっスよ。
でも、最近決めたばかりだったから……。言うの、遅れてごめん」
そう素直に言われて、それ以上追及できなくなってしまった。
おばあちゃんは、ずっと微笑んでいた。