第62章 卒業
カーテンの隙間から差し込む朝日が瞳を刺す。
重い瞼を開いた。
「……あ、さ……?」
腰の辺りに感じる温かさと重み。
彼の腕の存在を感じた。
下半身には、異物感が残っている。
昨夜はゆっくりして欲しいと自分でリクエストをしたせいで涼太はいつまでも余裕で、いつもよりもたっぷりと奥深くまで愛されてしまった。
まだ彼が奥まで入っている感覚が残っており、赤面しながらも彼の胸に顔を埋めた。
髪をくすぐるように吹きかかる彼の寝息を感じながら、小さく欠伸をしてまた眠りに入っていった。
「みわ、あとはこれだけ?」
「うん、そう!」
おばあちゃんの家に荷物を移動させるという事で涼太が荷造りを手伝ってくれたが、自分の荷物は実にボストンバッグ3つ分と、寂しいものであった。
更にその内のひとつは勉強道具や学校に必要なものだ。
物をあれこれ欲しいと思うタチではないのだが、これではやはり魅力的な女子にはほど遠いのかな、なんて自分にがっかりした。
「……結局、一緒に過ごせたのは……3ヶ月くらい? そんなもんだったっスね」
「うん……そうだね」
特に年末からは、色々な事があった。
もう、多分ここには戻れないんだと思うと、自然と涙が出てくる。
ここで大切なひとと過ごした時間、何があっても絶対に忘れない。
準備した荷物を玄関に置いておき、いつでも出発できるようにしておく。
流石に状況も変わったので、今回はクリスマスローズの鉢も持って行く事にした。
「みわ、夕飯までに向こうに着けばいいんスよね?」
ボストンバッグを全て玄関に運び終えた涼太が、リビングに戻ってきた。
「うん、だから午後は丸々ゆっくり出来るよ」
ああ、ここに帰って来る事はもうないんだな。
……。
耳が痛くなるような沈黙が下りる。
「みわ、これからも普通に遊びに来てくれるんスよね?」
「うん、勿論……お邪魔、するよ」
「じゃあそんなに寂しそうな顔しなくていいじゃないスか……」
「うん……涼太もね」
「…………」
目が合って、ギュッと強く抱き合った。
「……涼太……」
「なんスか」
「……発情期の動物みたいにサカってる、って思われるかな」
「……思わねぇスよ……」
ソファがふたり分の体重を受け、ギシッと音を立てて軋んだ。