第62章 卒業
「はいっ」
焦って靴を脱ぎ、インターホンまで走ったので、無駄に勢い良く出てしまった。
「あ、みわー、あたしあたしー」
「あき!」
「珍しいね! どうしたの?」
「いや、ちょっと前通る用事があったからね、寄っただけ。はいこれ」
あきは小さめの可愛らしい花柄の紙袋を差し出した。
「うん? なあに?」
「ほら、バレンタインにカップケーキ焼いてくれたでしょ。ホワイトデーのお返し」
「ええ!? 良かったのに!」
「ま、気持ちだから。あと、明日休みなんでしょ? 黄瀬と観ればいいと思ってオススメDVD入れておいたよん」
袋の中にはDVDが2枚と、紙袋と同じ柄のお菓子の缶らしきものが入っている。
「わあ! ありがとう!」
「来週からまたおばあさんと暮らす事になったんでしょ? まあ、ふたりで居られる間は仲良く過ごしなよ」
にっこり笑って親友はそう言ってくれた。
「うん、ありがとう」
「じゃ、あたしもう行くね」
「えっ、お茶でも飲んで行けばいいのに。涼太まだ帰って来てないし」
「いやいや、お邪魔虫は退散するわよ」
そう言ってドアノブに手を掛けようとした瞬間、ドアが開いた。
「ただい……おわっ、あきサン?」
「ビックリした……いきなり帰って来ないでよね」
「……相変わらず理不尽っスね……」
涼太は両手に紙袋を持っている。
「丁度良かったわ、あたし帰んの」
「ええ、あき……折角来てくれたのに」
「上がってかないんスか?」
「いや、ホワイトデーのお返し渡しに来ただけだから。みわ、じゃーね」
「あ、ありがとう、あき!」
あきは颯爽と帰って行ってしまった。
「相変わらず嵐のようなヒトっスね」
「あはは、そうだね。……涼太、その紙袋どうしたの?」
涼太はがっくりとうな垂れた。
「いや……ホワイトデーだって言ってファンの子から送られてきたらしいっス……」
「一応、お返しの日なのに不思議だね」
「なんでもイベントという理由があればなんでもいいんスよ……彼女らは」
「お疲れ様。疲れたでしょ、ご飯にしよっか」
「うう、みわだけが癒しっス……」