第62章 卒業
「じゃ、じゃあ選手抜きで私だけ実業団チームの合宿に参加するという事ですか……!?
この機会に、選手も参加する事は出来ないのでしょうか?」
折角の機会だ。
練習だって是非とも一緒にしたい。
「今回はすでに招待する高校が決まっていてな、入り込む余地がなかった。
次のチャンスはゴールデンウイークか夏休みだろうな」
「そうですか……」
「どうだい?」
「……是非、参加させて頂きたいです。
ただ……大学チームの合宿にも参加することは出来ないのでしょうか?」
「連続での合宿も厭わないというならそれでも構わないが、君は他のマネージャーを育てなくていいのかい?」
「あ……」
「そりゃあ、君が行けばメンバーは助かるだろう。
だがそれでいいのかな? 他のマネージャーもそういった経験を積ませて、どんどん全体のレベルを上げるべきだと思うが」
マクセさんのご指摘に、恥ずかしくて顔を上げることが出来ない。
彼の言う通りだ。
全部自分が行きたい、やりたいというのはただのワガママでしかない。
4月になったら新しいマネージャーも入って来るだろう。
その時に、海常バスケ部のマネージャーとして、新入生に教えてあげられるレベルまでは達していないといけない。
卒業式の日、マネージャーのイズ先輩と約束したではないか。
マネージャーもひっくるめて、皆で強くなれと。
「……分かりました。大学チームの合宿には、違うマネージャーを参加させます」
「君は本当に聡明だね」
マクセさんはそう言って、ニヤリと微笑んだ。
「ふう……ただいま、っと……」
カバンの他に、大きな紙袋をドサリと置いて脱力した。
今日はホワイトデー。
例年、部員たちからのお返しは基本的に個人的なものではなく、全員でお金を出し合って買ってくれたものを貰っている、というイズ先輩のお話だった。
バレンタインだって、マネージャー側もお金を出し合って買ったものなので、それなら平等でありがたい。
どこでも使えるブランケットを頂いて、とても嬉しかった。
それなのに、なんだかんだ皆、個人的にもお返しを用意してくれていたようで。
結果、この有様である。
気を遣わせてしまって申し訳ない……と、ため息をひとつついて紙袋を見下ろした。
玄関から上がったところで、
ピンポーンとインターホンが鳴った。