第62章 卒業
あー……朝だ……
隣にあるはずの熱が無いことに気付く。
まだ開かない目でぱんぱんと隣を叩くが、やはりシーツの感触しかない。
時計が見れるところまでまだ起き上がれないけれど、きっとロードワークの時間なんだろう。
「……また……寝すぎちゃった……」
自分の意志の弱さにがっくりして枕を抱きしめる。
最近は、涼太と愛し合って寝た翌日に早起きするのが本当に難しい。
起こしてくれればいいのに。
一瞬そう思ったが、以前に頑張って走ろうとして、ランニング途中に腰に力が入らなくなってそのまま動けなくなり、涼太におんぶして貰ってようやく帰ってこれたという前科があるからか。
……うん、きっとそうだろうな……。
またまた自分のみっともなさに大きくため息をついた。
彼に強く、深くまで愛された証拠に、下半身が怠くて重くて仕方ない。
昨日あれだけ自分の全身を翻弄した快感が、翌日こうやって追い討ちをかけるように攻めてくるのがなんとも言えない敗北感。
結局いつも、気持ち良い事に流されてしまう。
……でも明日でこの部屋は出る。
おばあちゃんには反対されたけど、おばあちゃんと一緒に暮らすのが正しいと思うから。
大人になるまで、しばしおあずけ。
……大人、かぁ。
数年後の私は、何をしているんだろう?
いくつになったら、大人なの?
ハタチになったら?
高校を卒業したら?
大学を卒業したら?
……分からないな。
あれだけ諦めていた自分の『未来』が、最近見え隠れしている。
私でも先の事を考えてもいいのだと、そう言われているみたいに。
春休みは、私は私でレベルアップしなければならない期間だ。
4月になったら新入生も入ってくる。
夏になったらすぐにインターハイ。
1年はあっという間だろう。
よし、と気合いを入れて起き上がった。
やはり腰はギシギシと甘い痺れを残していた。