第62章 卒業
3月14日。
まだ日は昇りきっていない。
脳がひどい興奮状態だったからか、目が覚めてしまった。
世ではホワイトデー。
オレたちが、一緒に過ごせる最後の土日。
腕の中にある白く美しい肉体に、そっと触れた。
……反応はなく、変わらず規則的に肩を上下させている。
昨夜の情事の名残で、みわはぐっすりと眠っており、まだ目を覚ましそうにない。
練習の時間までにはまだまだ時間がある。
名残惜しい気持ちをそっと寝かせ、オレは布団を出た。
明日は狙ったかのように休養日だ。
今日思いっきり練習し、明日はふたりでゆっくり過ごそう。
ランニング用の服装に着替えて、スマートフォンをチェックする。
事務所からメールが入っていた。
受信時間は深夜の3時。
あのヒトまた徹夜してんのか……と気の毒になった。
そういえば今日は、撮影をした例の香水の発売日だったな。
掲載誌と香水があるから事務所に取りに来いとの事。
今日は夜遅くまでの練習ではないから、練習後にパパッと取りに行ってしまおう。
折角だから、みわと見たい。
厚く着込んだインナーの上に白のウインドブレーカーを羽織って、ランニングシューズに足を通した。
静かに部屋を出て行く。
冬に比べたら、日の昇りが早くなってきた気がする。
本当は朝日を浴びながら走るのがとても好きだけど、まあそればかりは仕方ない。
大体同じ時間帯にランニングをしている人がいるが、皆こぞって音楽を聴きながら走っている。
自分はまだ目が覚めない街の何気ない音を聞きながら走るのが好きだけど……音楽を聴いて集中力を高める癖をつけた方がいいのか。
今は集中するために苦労する事は殆どないけれど、そういうのも手段として身につけておくのはアリかもしれないな。
バスケ選手として。
「将来の……夢、かぁ」
薄暗い街中を走りながら、なんとなく独りごちた。