第62章 卒業
オレとみわが謝恩会会場に着いた時、既に殆どの部員は集まっていた。
普段はどのような営業スタイルかは知らないが、パーティー用に立食形式になっている。
「おー黄瀬、なんか飲めよ」
バイキングコーナーで皿に唐揚げを盛っていた笠松センパイがオレに気付き、アイスティーを注いでくれた。
「あ、オレが先にセンパイに注がなきゃいけなかったっスね、スンマセン」
「柄にもなく気ィ遣ってんじゃねーよ」
「ヒドイ!」
もう、すっかりいつもの雰囲気だ。
……笠松センパイが皆の前で涙を流すのを、今朝初めて見た。
「……卒業おめでとうございます」
「……おー」
「センパイ、バスケ続けるんスよね」
「まあな」
「明日からウチの練習来てくれるんスか?」
「いや、明日はもう大学の方のチームに顔を出す予定。小堀と一緒に」
笠松センパイ、小堀センパイは同じ大学に進む。
森山センパイだけは違う大学へと進学だ。
「そっスか……」
「オマエ決めてんの、卒業後の進路」
「いやー……正直、まだハッキリとは……。
でも、目的はぼんやり見えてきたっス」
「まあ、まだ時間はあるしな」
「でも毎日バスケしてたらあっという間っスよ」
「全くだな」
少しワルイ笑顔は相変わらずだ。
きっとこの人は、大学に行っても持ち前のキャプテンシーを発揮しまくって、輝き続けるんだろう。
バスケ選手にしたら小柄な178㎝のセンパイは、コートの中では誰よりも頼りになる。
オレもそんな選手になりたいと思った。
「おう小堀、こっち来いよ」
笠松センパイに声を掛けられ、オレンジジュースを持った小堀センパイが向かって来た。
「おい笠松ー!」
「ああ、今行く。黄瀬悪りぃ、またな」
保護者のお母様方に囲まれた森山センパイに呼ばれ、笠松センパイは去って行ってしまった。
思いがけず、小堀センパイとふたりきりだ。
「黄瀬、お疲れ」
「お疲れ様デス」
「……悪かったな」
センパイはぽつりとそう言って、ジュースに口をつけた。
……それは、まあ……
さっきのみわとの事っスよね。
「本音としては一発ぶん殴ってやりたい気もありますけど、みわのお願いなんで、やめておくっス」
「……そうか」
簡易ステージでは、1、2年での催し物の準備が行われていた。