第62章 卒業
「……先輩……頼みって……?」
どうしよう。
全然知らなかった。
先輩の気持ちを踏み躙るような事、していなかっただろうか。
……いや、涼太と仲良くしている事自体が、先輩を傷つけていたとしたら……?
そうしたら、先輩の頼みって一体……。
「コサージュをね、つけて欲しいんだ」
「……え?」
先輩の胸元には、今朝中村先輩が付けたコサージュが付いている。
先輩はポケットをゴソゴソと探り、胸のものと同じコサージュを取り出した。
「先輩、それって……」
「これ、生徒会からもう1個、貰って来ちゃったんだよね」
先輩はそう言って、いたずらっ子のような顔をして笑った。
そんな表情もするんですね、先輩。
「これ、神崎がつけてくれないかな」
「ふたつなんて贅沢ですね」
「最後くらいいいだろ?」
「ふふ、実は皆が羨ましかったんです。
私もつけたいなって思っていました。嬉しいです」
コサージュを受け取り、一歩踏み出して中村先輩のコサージュの隣に当ててみた。
「中村先輩に怒られちゃいますかね」
「大丈夫だよ」
後ろの安全ピンを外し、既に付いているコサージュの隣につけた。
「……先輩、ご卒業おめでとうございます」
今度は大丈夫だ。
笑って言える。
笑顔で顔を上げた。
瞬間、ふたりの影が重なった。