第82章 掌中の珠
ふわふわ。
ふわふわしてる。
身体が綿に包まれて、空を飛んでるみたい。
徐々に開かれていく視界は、明度が低い。
窓の隙間から見えるのは、群青。まだ夜は明けていないようだ。
そうだ、昨日は眠くなってしまって……それで、先に寝かせてもらったんだった。
自分が思っているよりも、気を張っていたのだろうか。時間を確認したり、寝返りを打つ気力すらも湧かない。まだ半分夢の中に足を突っ込んでいるみたいな感覚。
お姉さんからいただいたこのソファベッド、本当に気持ちいい。柔らかいんだけど、柔らか過ぎずに体重を支えてくれるような……。そして、一緒に送ってくれたお布団は見た目よりも重みがあって安心する。
まだ朝までは時間がありそうだし、もう少し寝てしまおうかな。と、いうより、起きれない……。
私の腰に、ふわ、と腕が巻き付いた。
一瞬フッと意識が飛んで、寝落ちている間に涼太が来ていたみたいだ。
背中が温かい。涼太……黒子くんと並んで寝るって言ってたのにいいのかな……。
そのままぎゅっと彼の胸の中に抱き込まれた瞬間、違和感を感じた。
香りが違う。そして、体格が……違う。
まだ寝惚けているんだろうか、ううん、そんな訳ない。間違えるわけがないもの。
涼太じゃ、ない。
「……黒子、くん?」
消去法で残った可能性を口にした……けれど、返答はない。
まさか、涼太でも黒子くんでもあきでもない人間がこの部屋に?
心臓が軋み、眠気も一瞬で覚めた。
誰、と問おうとした刹那、頭上から降ってきたのは……寝息?
「んー…………」
その声で確信した。黒子くんだ。
寝惚けているんだ、きっと。
「黒子くん、あの、部屋、間違えてるよ」
なんて言ったらいいのか分からなくて、やっとそれだけ言えた。
黒子くんは、信頼しているお友達だ。こういうことを無理矢理するような人じゃない。
「黒子くん、お願い、起きて」
可能な限り声を張った。腕を解こうと身じろいでみたものの、変化は得られない。
彼に悪意がないのはその規則的な寝息からもわかる。でもあの、困るんだけれど!!