第83章 掌中の珠
「いや〜、黒子もお酒飲むと饒舌になるのね、面白いじゃん。もっと飲みな、ほら」
「いえ、ボクは始めから一滴も飲んでいませんが……」
あきサンがチューハイの缶を黒子っちのグラスへ向けたが、彼は左手の手のひらを見せて淡々とそう言い放った。
「あはは、そうだった」
そうだった。うっかりオレまで、黒子っちが飲みすぎての発言だと勘違いしてしまった。
「ウーロン茶、空ですね。新しいの取ってきます」
そう言って立ったが、足取りもしっかりしてる。うっかり間違えて酒飲んだとかもなさそう。
全員が、ウーロン茶が注がれていく黒子っちのグラスをしげしげと見つめている。
「黒子って、見るからに草食系と思ってたんだけどもしかして肉食系?」
「まだその話ですか」
「いやー、オレも黒子っちは草食系代表かと思ってたんスけどね……」
バスケしてる時の闘争心溢れる姿を見ていればそんな事ない気もしつつ、女性関係には疎そうだなというのが正直なところ。
「野菜は好きですが、肉も食べたいですし好きですね」
「なんか卑猥」
「そうですか?」
あきサンと黒子っちが話している横で、みわはずっとアワアワしている。
「う、あっ、あの、えっと、黒子くんおかわりいる!?」
「……すみません、ボクはまだ飲めないので……」
缶チューハイを慌てて向けたそれは、数十秒前のあきサンと全く同じ行動。
「あっ、そ、そうだよね、さっきからそう言ってるのにね、あっじゃあウーロン茶、あっ、まだ入ってるよね!」
「今入れたばっかりっスからねえ」
「……ぷっ」
珍しく、黒子っちが大笑いしている。
散々笑ったあとに、ぐいとグラスをあおった。
「おかわり、いただけますか?」
「う、お気遣い頂き恐れ入ります……」
みわがウーロン茶を注ぐ姿を見る黒子っちは、オレもコートの中以外では見たことない……愛しいものを見るような、そんな目つきだった。