第61章 恋人達は愛に誓いを
「神崎!」
カントクの声が響く。
「ハイッ!」
みわの気持ちのいい返事。
声掠れてるけど。ごめんね。
カントクに駆け寄ったみわは……
またあのオトコ、マクセサンと3人で何かを話している。
「黄瀬!」
なんか楽しそうに笑ってるけど、なんスかあれ。
「黄瀬!!」
触んなよ、触んなよと念を送る。
「オイ黄瀬!!」
「あ、ハイ、なんスか」
「なんスかじゃねーよ、集中しろよ黄瀬!」
2年のセンパイにずっと呼ばれていたらしい。
「スンマセン!」
今日は全く集中できていないな。反省……。
時々、あははとみわの声が届く。
気に入らない。
せめてオレがそこに居て話を聞ければ。
「黄瀬! オイ!」
何人かの人に名前を呼ばれて、振り向こうとした途端、視界が揺れた。
パッと目の前が真っ暗になった。
ひんやりとした空気。
まあ、今は2月だしな。寒いか。
額に冷たいものが触れている感覚。
オレ、どーしたんだっけ。
「黄瀬くん」
みわの声だ。
なんだか遠くから聞こえる。
こっち来てよ。
そんで、涼太って呼んでって……。
「黄瀬くん」
今度は耳元くらいの近さでハッキリと聞こえた、みわの声。
重たい瞼を開くと、みわがオレを覗き込んでいた。
ん?
オレ、何してたんだっけ?
セックス中に気絶した?
フィルターがかかったようになっていた耳に、聞き慣れたかけ声とスキール音、ボールの音が入ってきた。
「黄瀬くん、気分悪くない?」
あれ、練習中?
「黄瀬くん、ボールが頭に直撃しちゃって、倒れたんだよ。気分はどう?」
ボール……ああ、そうだったっけ。
そう言えば、みわとマクセサン達が気になって……。
「……ん、平気」
起き上がると、みわの香りがふわりとオレを包んでくれた気がした。
ここが体育館じゃなければ、キスしたのに。
「天才と言えど、フツーの男の子だねえ」
含みのある言い方をする声は……またマクセサンか。
「大丈夫? 黄瀬君。派手に当たってたけど」
「……問題ねぇス」
「じゃ、練習に戻っておいで」
ニヤニヤとそう言い放ちやがって。
「……みわ、ありがと」
歯痒い思いをしながらも、オレはコートに戻った。