第12章 夏のはじまり
試合後の調整2日目。
昨日夜、無事に帰り着いたとみわっちから連絡があった。
丸1日会ってなかっただけなのに、すごく長く感じた。
心なしか、体育館に向かう足が軽い。
体育館に着くと、みわっちが制服姿でどこかに出かけるようだった。
「みわっち、どっか行くの?」
「あ、黄瀬くん。遠征で消費した消耗品とかの補充に行ってくるんだ」
「そっか。気をつけてね!」
「はーい!」
マネージャーは、忙しい。
そのお陰でオレたちがプレーに集中出来るんだけど。
一緒に居られないのは少し残念だけど、今夜からはみわっち貸し切りだ。我慢っスね。
3時間くらい経っただろうか。
駅前のスポーツショップを中心に買い物をするだけなのに、遅すぎないか?
「黄瀬、神崎戻ってきたか?」
「まだっス。ちょっと遅いっスよね。いつもなら遅くても2時間ちょいくらいなのに……」
なぜだか、嫌な予感がした。
「ちょっと着信ないか見てみるっス」
スマートフォンの画面を見る。
メールや着信はないようだ。
みわっちに電話をかけようとして……
スマートフォンが着信を知らせた。
【着信:黒子っち】
黒子っち? こんなタイミングで……
「もしもし、黒子っち? ごめん、今……」
『神崎さん、学校にいますか?』
切羽詰まった声だ。珍しい。
「いや、買い出しに行ったまま帰ってこなくて今、電話してみようと思ってたんスよ。もしかして会ったっスか?」
『今、海常に向かってたんですが……すれ違った海常生の女子達が、神崎さんの事を話してて……ボクには気づいてなかったみたいで』
胸がざわつく。
何だ?
「何? 何て言ってたんスか?」
まさか。
嫌な予感に、背筋が冷える。
『……アイツ、生意気だって。
二度と黄瀬君の前に姿出せないように男の知り合いに声かけて……輪姦(まわ)すって』
「なっ……!!?」
『駅前のカラオケボックスみたいです。ボクも今向かっています。黄瀬君も来てくだ……黄瀬君?』
やめろ。
やめろ。
「オイ、黄瀬!?」
センパイ達の声が遠くに響く。
頭が真っ白なまま、オレは走り出していた。