第12章 夏のはじまり
「な、なんでもない……ごめんなさい」
私、本当にみっともない。恥ずかしい。
敵うわけないのに。
目を合わせられず、俯いた。
「みわっち」
後ろから抱き締められて、ふわりと……彼の香りが鼻腔を擽る。
「昨日は、アリガト。オレ1人じゃ、眠れなかったかもしんない……」
笠松先輩の疲れた顔を思い出した。
先輩はよく眠れてないのかもしれない。
「みわっち、ごめんね。みわっちの近くにいるのがオレじゃなく青峰っちだったら、こんな悔しい思いさせなくて済んだのに……」
え?
「……っ黄瀬くん、何言ってるの? 私は、黄瀬くんだから……海常の皆だから、一緒に頑張ってこれた。一緒に居たいと思った。
黄瀬くんじゃなきゃ、皆じゃなきゃ意味ないよ!」
「……その言葉、そのままみわっちに返すっスよ」
「……え?」
「桃っちなんか関係ねー。みわっちが、オレの側にいてくんなきゃ」
「……黄瀬、くん」
なんてゲンキンなんだろう。
その言葉で、嫉妬で汚れた醜い心が優しく溶かされた気がする。
「あっ……」
黄瀬くんの唇が、うなじに触れた。
「……オレの家族、旅行がてらIH観にきてて。
暫くウチ、誰もいないんス。明後日の練習終わったら翌日オフだし……ウチ、泊まりに来ないっスか」
その……お誘いは、つまり。
気のせいかもしれないけど、少しだけ、黄瀬くんの手が震えてる?
緊張がうつって、声が出なかった。
小さく、頷いた。
「オレたち、先に神奈川帰るけど……みわっち、帰り気をつけてね」
……『続き』、するんだ。
私、黄瀬くんと……。