第61章 恋人達は愛に誓いを
「……ケーキ、食べられる?」
「勿論っスよ!」
片付けも終わり、ダイニングテーブルでお喋り。
穏やかで、とても落ち着く時間。
毎日起きるようななんでもない事を、こうやって話せる関係。
すごく、嬉しい。
特別なデートで、特別な夜を過ごすというのも素敵な事だけれど、"日常"を一緒に過ごせるというのが何よりも嬉しいんだ。
そう、だってこれって……。
「じゃあ、冷蔵庫から出すね。紅茶でいいかな」
「うん。……みわ、3年生にチョコレート、あげたんスか?」
「うん? あ、まだ渡せてないんだ。月曜日に渡す予定だよ」
「皆と同じやつ?」
「同じだよ。どうして?」
「……いや、なんでもないっス」
涼太は結構、3年生に関してこういう風に聞いてくる事が多い。
なんか気になる事があるのかな?
「ふふ、学年で大きさを変えたりしないから、大丈夫だよ。平等平等」
「そっスか……」
意外に子どもっぽいところ、あるんだから。
「はい、涼太……どうぞ」
涼太の前にケーキを置く瞬間、どんな反応だろうと心臓がバクバクする。
「うぉ」
「ミロワールショコラに初めて挑戦してみたんだ……お口に合うといいんだけど」
「すげぇ、このツヤッとしたチョコが美味そう! 店で売ってるヤツみたいっスね!」
「ミロワールって、"鏡"って意味なんだって」
「へぇ……すげー……」
涼太はフォークでつんつんと表面を確認している。
「ねえ、この上に乗ってるバラみたいなのはなんスか?」
「あ、それも作ったの。食べれるよ。あの……クリスマスローズをイメージ、したんだ」
……こだわりすぎって言われちゃうかな。
なんだか凄く、恥ずかしい。
見た目は崩れず汚れず、上手くできたと思う。
「みわってスゴイんスね」
「いや、レシピ調べて作っただけだから! 持ち上げすぎないで!」
涼太はケーキの写真をスマートフォンにおさめてから、スッとケーキにフォークを通した。
本当に愛しいものを見るような目で一瞬ケーキを見つめながら、フォークを形の良い唇と唇の間へと運んだ。
……お味はいかがでしょうか。
そう聞くよりも先に、涼太が破顔した。
嬉しそうに、幸せそうに食べてくれるのが何よりも嬉しかった。