第61章 恋人達は愛に誓いを
「オレが受け取るのは、彼女からの……みわからのチョコだけだから。悪いけど皆、帰って貰っていいスか」
ここからだとよく見える。
ちぇー、という顔をしながら去る子、
何を言われているのか分からず立ち竦む子、
顔を手で覆い、しゃがみこんで泣く子。
持ってきた紙袋を地面に叩きつけて、走り去って行く子もいた。
ありがたいとは思う。
しかし、その中の誰もオレの心を動かすことはない。
オレの心を動かせるのは、みわだけだ。
先ほどの、腕の中にいる宝物のような彼女を想像するだけで気持ちがまた昂ぶってくる。
一緒に居たい。
声が聞きたい。
笑顔が見たい。
涙を拭ってやりたい。
肌に触れたい。
触れて欲しい。
繋がりたい。
こころまで深く、繋がりたい。
そう思えるのは、本当に彼女だけなんだ。
申し訳ないけれど、誰も彼女の代わりにはならない。
「ごめんね」
もう、それ以上の言葉は必要ない。
女のコ達の波を優しく押し戻し、体育館入り口のドアを閉めた。
「センパイ、スンマセン!」
センパイ達にそう言うと、皆どことなくニヤニヤしている。
「あれ断るとか、信じらんねー」
と言ってる人も居たけど。
「黄瀬」
「あっ早川センパイ、中断してスイマセン!」
「そ(れ)はいいけど黄瀬、監督が職員室に来いって!」
「?」
なんの用スかね?
「おお黄瀬か。お前、今日は帰れ」
監督が突然言い出した事に、咄嗟に反応する事が出来なかった。
「……え!? ど、どうしてっスか!?」
「外を見ろ」
窓の外を見ると、体育館に向かって行く人の列と、体育館から戻ってくる人の列。
まるで、アリの行進を見ているようだ。
「あれって……」
「さっきから職員室にもチラホラ来ている。
俺から黄瀬にチョコを渡して欲しいと」
「……ス、スイマセン……」
これはもうひたすら謝るしかない。
「これ以上の混乱は練習に影響する。今日は帰れ」
皆に迷惑を掛けている以上、強く主張する事も出来ずにオレはトボトボ帰る事になった。
今日は絶好調だったのに……。