第61章 恋人達は愛に誓いを
キーンコーン……
高らかにチャイムが鳴り響く。
土曜日の今日でも、チャイムは平日と同じように鳴る仕組みだ。
その頃には、体育倉庫のふたりの熱はこれ以上にないくらい上昇しきっていた。
「ン……ッ」
みわの熱を帯びた声が、オレの理性をかき乱していく。
やばい。止まんない。
腕の中にいる大切なこの人を逃がしてやることが出来ない。
細く、折れそうな腰を支えながら、ひたすらにその甘い唇を味わっていた。
「ん、ん、りょ……たぁ、も……じかん……」
振り絞って出たその声では煽られるばかりでこの衝動を止められるわけもなく、遠くに聞こえた早川センパイの号令で、ようやく解放してあげられた。
集合すると、みわのあまりの顔の赤さに、走り過ぎで倒れるのではないかとあらぬ心配をされていた。
ごめんみわ。
ふと気付く。
朝からいい事ばかりあったので忘れそうになっていたが、今日はバレンタインデー。
オレが、1年のうちでTOP3に入るくらい嫌いな日。
「……センパイ、あの人だかり、なんスか」
「……分かってんだろ、お前のファンだ……」
皆、土曜日だというのに揃いも揃ってご苦労なことで。
手に紙袋やら何やらを下げた女の子達の群れが体育館入り口に見える。
「げ……」
中学校時代とは比べ物にならない人数である。
6月のオレの誕生日の時よりも更に増えている。
……気持ちはありがたいんスけど、気持ちだけでおさめておいてくんないっスか……。
「黄瀬くん、これっ! バレンタイン!!」
ひとりが思い切ったのを皮切りに、私も私もと次から次へと押し寄せる女のコ達。
ああっ、日本人って感じっスね! もう!
練習も一時中断になってしまっている。
そりゃそうだ。こんな人数が一気に押し寄せたら。
止まらない人の波に、仕方なくオレは壇上に上がり、人だかりに向けて言った。
「皆、ワザワザ休みの日まで来てくれて、ありがとう。でも、オレは誰のチョコも受け取れないっス」
ざわつく集団。