第61章 恋人達は愛に誓いを
「黄瀬、練習前から気合い入ってんなー」
「おー、すげえな」
「なんだあのキレ」
キュキュッというスキール音。
殆ど音がしない軽快な踏み切り。
ゴールに吸い込まれていくボール。
涼太が……
ご機嫌だ……!!
いつも消極的で、なんでも涼太にきっかけを作ってもらってるから……。
バレンタインの時くらい、少しくらい、積極的になっても……いいよね?
って思って。
ちょっとだけ、出し慣れない勇気を出した。
ああ、恥ずかしかった……。
大体、寝てる涼太すらマトモに近くで見れないのに、あんな至近距離でキキキキキスとか……!
でも、頑張ったぞ。
よくやった、自分。
いけない。
考え事ばっかりしてたらあと10分と少しで練習開始の時間だ。
汗で滑って転倒するのを防ぐため、練習前に一度モップがけをする。
コートには涼太の他にあと3人。
皆、最後のシュートを決めてボールをカゴへ戻している。
「おい黄瀬、もう練習はじまるぞ」
「これ最後っス!」
そう言って涼太も最後のシュートを決めた。
リングにもボードにも当たらない。
絶好調だね。
そして、相変わらず綺麗なシュート姿。
「ナイッシュウ!」
素直に思ったままを口に出しただけなんだけど、涼太が少し照れたように笑った。
涼太がボールを片付けている間に、残りの箇所のモップがけを終わらせてしまう。
体育倉庫にモップを戻しに行くと、丁度涼太が入っていくところだった。
涼太もモップを取りに行ってくれたのかな?
モップがけは基本的に1年生の仕事だから。
「あ、もうモップがけは終わったよ」
なんとなく近い距離だと目が合わせられなくて、俯きながら倉庫に入る。
慣れない事すると、心臓に悪い……。
ふぅ、と息を整えてからモップを立てかけて、振り返ると何かにぶつかった。
「ぷ、すみませ……」
汗の匂いに混じって、ふわりと香る涼太の匂い。
まだ彼が居たのに気付かず、顔面でぶつかってしまった。
「あっ、ごめん黄瀬く……」
続く言葉は、彼の唇で塞がれた。
「ん……ッ!?」
右手は後頭部を支えられ、左手は……手を握られている。
熱い。
火照った唇の熱が、全身へ伝染していく。
「みわが……カワイイことするから、悪いんスよ……」