第60章 お互いの
期待と緊張が入り混じった気持ちで目を瞑っていると、耳朶を弄っていた指はそっと耳を離れ、再び髪を撫で始める。
「……って、いつもならキスしたいところなんだけど……今日は、我慢するっス」
するすると頭を撫でたまま、残念そうな声。
「え……?」
どうして?
思いがけない涼太の言葉に、つい聞き返してしまった。
「さすがに今回の件は、反省した。
これで、はいごめんなさい仲直りですねキスしましょって、調子良すぎるっしょ」
「……そんな」
「オレには少し、我慢が必要なんスわ」
え、ええ……
ここでお預けって、そんなの、私も……
ちゅっ、とまたおでこにキスが落とされた。
「あんまりオレを甘やかさないで、ね」
再度ぎゅっと抱きしめられた後、涼太はもそもそとこたつから出てしまった。
「ごめんね」
でも、しっかり気持ちは高揚していたようで、制服のスラックス越しに見える彼の欲望は、大きく膨れ上がっていたのが分かった。
……。
涼太が我慢しているのに、私がしないなんてダメ、だよね。
仕方なく私も起き上がり、こたつテーブルの上を片付ける事にした。
「あ、ごめん。ゴミ、こっちに貰うっス」
コンビニの袋やインスタント食品のゴミを纏めて涼太に渡す。
「……みっともないとこ、見せたっスね」
「ん……ちょっと……ビックリした」
一緒に住んでた時は、マメすぎるほどマメで、あんな風に洗濯物が散乱したり、こうやってテーブルの上が……なんてこと、考えられなかった。
「みわがいなくなったら、こんなモンっスよ」
「……そうなの?」
「なんもやる気がしなくなっちゃって」
キッチンのゴミ箱前でなにやらアレコレやっている涼太に、今度は私が後ろから抱きついた。
「ん? どしたんスか?」
泣きたくなるほど、優しい声だ。
好き。
好き。
……大好き……。
「……なんでもない」
「ん……そうっスか」
涼太も、何も言わなかった。
そのまま暫く、涼太の体温を感じていた。