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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第12章 夏のはじまり


笠松先輩と別れてから、ホテルの中庭に出た。
女神を模した噴水のところに人影が2つ。

あれは、桐皇の青峰さんと桃井さん?

「……オイさつき、あれ、黄瀬んトコの」

「え! 大ちゃんが他校のマネージャーを覚えてるなんて、びっくりした!」

「ウルセーな……オレぁ先行くぞ」

青峰さんが何かを話して、その場を離れる。

桃井さんが、笑顔でこちらに手を振っている。
一応振り返ってみたけど、誰もいない。
……私、だよね?

「海常の神崎みわちゃんだよね。私は」

「桐皇学園の桃井さつきさん、ですよね」

「あ、知っててくれたんだ」

「知らないわけ、ないですよ……」

選手だけではなく、マネージャーでこれだけ注目されているのは彼女くらいだろう。

「今時間あるなら、少し話しない?」

「……はい……」

「きーちゃん、変わったね」

きーちゃん……親しげな呼び方。
黄瀬くんも、桃っち、って言ってた。

胸の辺りが、ちくりとする。

「昔はあんなじゃなかった……今は、すごくいい目になった。いいチームに入れたんだね」

この人は、昔の黄瀬くんを知っている。
私の知らない黄瀬くんを。

「……」

「みわちゃん、きーちゃんの彼女なの?」

「……はい……」

「そっか。きーちゃんのこと、よろしくね」

そんなこと、あなたに言われなくても!
と、言いたかった。言えなかったけど。
なんだろう。すごく惨めだ。

「昨日、きーちゃんとみわちゃんが一緒に部屋に入ってくところ、見ちゃった」

「えっ」

いつの間に。
全然気づいていなかった。

「ごめんね、たまたまだったんだけど……試合の後だったし、声掛けづらい雰囲気で」

「……」

「きーちゃん、すごい優しい顔してた。
みわちゃんのこと、大事に思ってる顔。いいなあ、誰かの大事なものになれるって。すっごく羨ましい」

「羨ましいのは、私の方です……」

「みわちゃん?」

「私は、私の力じゃ、今の私じゃ、海常の皆の役には立てない。私も、私も……」

あなたみたいに。

力がない自分が悔しい。
悔しくて、涙が出てくる。
でも、泣くわけにはいかない。
このひとの前では、絶対に。



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