第3章 海常高校
電車を降りるまで、他愛ない話をすることで少し気が紛れ、なんとか学校の最寄り駅まで到着することができた。
その後、登校中も黄瀬くんは気を使って色々話しかけてくれたけど、口下手な私は話を広げることができなくて。
校門を抜けると、青葉に変わりつつある桜の木々が目に入る。
私は職員室に寄らなければならなくて、下駄箱で黄瀬くんにお礼を言って別れた。
先生からオリエンテーションの簡単な流れと私の出番のタイミングを聞き、プリントを頂いて教室に戻る。
既に、教室内ではいくつかのグループができていた。
(……あー……乗り遅れた……よね)
自分のバカ。初日から休むなんて。
友達を作るチャンスだったのに。
落ち込んでいても仕方ない。
先生から貰った座席表を見て、自分の席を探す。
私の席の斜め前が、ちょっとした人だかりになっていた。
人だかりの中心は……黄瀬くんだ。
当たり前だよね。
男性が苦手な私ですら、思わず見惚れた。
それに、あの優しさ。
外見云々は関係なく、彼は私の恩人だ。
ちゃんと、お礼をしないと……。
そうこうしているうちに、ホームルームが始まり、体育館へ移動する指示が出される。
そこでも皆は新しく出来た友達と話しているけど、私は壇上に上がるため、集団を離れなくてはならなくて。
ますます距離ができちゃうな……
ふと、女子に囲まれている黄瀬くんと目が合った。
彼は困った表情を一瞬だけ見せたが、すぐに笑顔に戻る。
とても声を掛けられそうになくて、軽く会釈をした。
私の出番はすぐ。
大勢の前で話すのは、特段苦手ではない。
だからと言って上手に喋れるわけではないんだけれど。
今日は、暗記したセリフを淡々と読み上げるだけだったから、(別に暗記をする必要はなかったみたい。先生方に驚かれてしまった……)心地よい緊張感の中、終えることができた。
その後は2、3年生の代表者挨拶と各部活や委員会の紹介、勧誘で、オリエンテーションは幕を閉じた。
教室に戻って時間割の配布と今後の予定を聞き、今日は終了だ。
13時には解放された。
さて……どうしよう。
朝は黄瀬くんの協力のおかげでなんとか電車に乗れたけれど、ちゃんと帰りも電車に乗れるだろうか。
ここ最近は気持ちも落ち着いていたのに、今朝の一件のせいでまた電車に乗るのが怖くなってしまった。