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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第2章 痴漢


狭い車内。
この混雑にも関わらず静まり返った空間には、不気味ささえ感じる。

大きく息を吐いた。
心臓が口から飛び出そう。
緊張して、冷や汗が出てくる。

借りたタオルハンカチで口元を覆い、襲い来る吐き気と闘う。
大丈夫。ほんの少し我慢するだけだもの。
落ち着いて、落ち着いて……。

発車してしばらくすると、また周囲のひとと押し合いに……

……あれ……?
こんなに混んでいるのに、電車は揺れるのに、私の身体は誰とも接触していない。

吐き気を我慢するのに必死で、気が付かなかった。

不思議に思って後ろを振り向くと……彼が壁になってくれていた。

「イテ……この時間は混んでるっスね」

「だ、大丈夫ですか!?」

私だって決して背が低いわけではないのに、頭1つ分以上高い身体。

ちょうど私の顔の高さには、彼の腕がある。

「もっと余裕があればいいんスけど、これが限界スわ……ごめんね」

「そ、そんな……ご迷惑をお掛けしてしまって、あの、本当に申し訳ありません」

電車の揺れとともに彼が下を向くと、視界にサラサラの髪の毛が入ってくる。

口元に当てているタオルもそうだけど、このひとからはとても優しい香りがする。

なんでこんなに優しいんだろう……?

「あ、まだ名前も名乗ってなかったっスね。オレは1-7の黄瀬 涼太っス」

えっ? 7組?
っていうか同い年?

「あ、あの……私も1-7で神崎 みわ と申します。入学式、休んじゃって……」

「そうなんスか! 確かに、ひとりお休みしてたスわ。確か……首席入学だって聞いたっスけど、マジ?」

「あはは……一応そうみたいなんですけど、別に全然大したことないんです……」

勉強は好き……ただ、他に取り柄がない。
それだけ。

「自信持っていいと思うスよ。オレは勉強苦手だから、尊敬するっス!」

なんて眩しい笑顔なんだろう。
そう言って貰えて、嬉しいのに。嬉しかったのに。

自分に自信がない私は曖昧に頷くだけで、何も答えることができなかった。

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