第60章 お互いの
残っていた部員と、みわが驚いて振り向いた。
練習中のかけ声よりも大きな声が出ていたようだ。
振り向いたみわと目が、合った。
それだけなのに、たったそれだけなのに
周りの酸素がなくなっているのではないかと思うほど、息が苦しくなってゆく。
みわが、こっちに歩いてくる。
その歩幅に合わせて、心臓がドクドクいっているのが分かる。
あと、2メートル。
1メートル。
「黄瀬くん、どうかした? どこか痛む?」
それは、一部員に対する態度。声色。
合っていた目がふっと逸らされ、オレの身体に視線を落とした。
ウエイトトレーニング中に身体を痛めたように聞こえてしまったのか。
決してそんな事はないんだけど。
「どのあたり?」
この、静かで落ち着く声。
ずっと喋っていて欲しい。
この声が聞こえる中で眠りたい。
「あ、足……っスかね」
全く痛まない足を指名してしまった。
おまけになぜか疑問系で。
「……一旦座って。左足から」
みわが手にしていたブランケットを床に敷く。
「みわ、手の怪我は」
「大丈夫だから。はい」
床に座り、ふわふわしたブランケットに左足を預けると、みわが太腿の付け根から触り出した。
不謹慎と思いながらも、細い指の感触に、ゾクゾクと感じてしまう。
もう、1ヶ月近くもこの肌に触れていない。
一所懸命不調を探る指に、すっかり興奮してしまっていた。
「ん……ここ?」
「いて」
痛む場所なんか無かったはずなのに、みわが太腿の1点を刺激すると、痺れるような痛みが走った。
「ここだね、張ってる」
「ん」
揉まれるのが物凄く気持ち良く、つい変な声が出てしまった。
「右も見るね」
同じように、右足も触られる。
足首で難色を示した。
「とりあえず、今すぐにどうこう必要じゃないみたいだから、シャワー先に浴びてくる? 汗が冷えて風邪を引いてしまうし……」
「あ、うん、わかったっス」
「ここは冷えるから、処置室の鍵、借りてくるね。シャワー終わったらそっちに来てもらえるかな」
「……うん、お願いするっス」
思いがけず、ふたりきりになる時間が出来た。