第60章 お互いの
こんな寒い日には、なぜか背中の傷がシクシクと痛む。
もう跡も殆ど残っていないし、普段そんな事は決してないのに。
ガラスで切った手の傷はそんな風に痛まないのに。
体育館に足を踏み入れると、何故かとても久しぶりのような気がした。
決してそんな事はないのだけれど、練習の日に丸1日休むというのが初めてだったからか。
体育館内に響くスキール音とボールの音が心地いい。
うん、ここにいる間はバスケの事だけ、考えていればいい。
今日は、昨日とはうって変わって、こころの状態がいいみたいだ。
うっかりこたつで朝まで寝てしまい、身体中がギシギシ音を立てているようだけれど。
今朝携帯を見たら、昨日涼太から何度も着信があった。
もう別れたいという話だったのだろうか。
出れなくて良かったかも。
朝から彼の顔をちゃんと見れていない。
反射的に、視界に入れてしまう事を避けていた。
彼の表情や態度から、彼の本心が見え隠れする事が怖かった。
自分がどうしたいのか分からない。
ただ、傷付きたくないだけかもしれない。
【会いたい】と【会いたくない】がぐるぐるぐるぐると巡って、私の身体の自由を奪っていた。
「ありがとうございましたー!」
部活が始まってしまえば、1日はあっという間だ。もう帰る時間。
夕飯は何にしようかな。
ゴミがあまり出ないものがいい。
……面倒臭いな。
お腹は空いていないし、帰ったら勉強してさっさと眠ってしまおう。
……涼太は、ちゃんとご飯食べてるんだろうか。
大丈夫。
彼はしっかりした人だ。
女ひとりに左右されたりしない。
部屋だっていつもキレイにしてあるし、ひとりだってちゃんと料理もする。
私なんかとは違うんだから。
……あ、後ろに涼太がいる。
今日は一度もトレーニングルームに行かなかった。
タイミングが無かったというのもあったけど、いつものように無理してタイミングを作って行くこともなかった。
気配だけで彼が分かってしまうほどその存在感は大きくて。
何か、軽口でもいいから話すきっかけはないか。
不自然にならないように、自然に、なんとなく話せるような……
「……みわ!」