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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第60章 お互いの


もしかしたら、家に帰って来てくれているかもしれない。

そんな儚い望みをかけて、マンションへ走った。

寒風が肌を切り裂くように頬を掠める。
いっその事、血塗れになるまで切り裂いて欲しい。

みわは、きっと手を切る以上に痛い思いをした筈だ。

あの、顔。

絶望に支配されたあの顔。

"りょ、りょうた"

辛うじて振り絞ったあのか細い声が、いつまでも耳の奥にこびりついて離れない。

愛しい人の声だから、本当ならいつまでも消えずに残って欲しい。

でも、今その声は、ただただ後悔の念を抉っていくだけだった。



「ハァ、ハァ」

試合並みのダッシュでマンションのエントランスをくぐると、ポストを開ける。

郵便物が取られた形跡はない。
帰って来てないのか。


「リョウタ!」


……あまり進んで聞きたくない声に、渋々振り返る。

「……ども、Sariサン」

毛皮のコートにヒールの高い靴が似合ってるっスよ。女帝みたいに。

「あら、ご機嫌ななめじゃない。みわちゃんにお礼言っておいてね」

「……今度は何スか」

「私の部屋を片付けてくれたお礼よ。引っ越し当時に戻ったみたい。
本人はあんなタバコ臭いところ、二度と来たくないかもしれないけどね」



……タバコ、臭い?


「それって、昨日の事っスか」

「そうよ。昨日の朝、こんな感じでここで捕まえてね。
お茶をご馳走しようと思ったのに、部屋が汚いからって掃除して貰っちゃった」

「みわ、出かける用事があるって言ってなかったんスか? いつまで居たんスか?」

「あら、珍しく食いつきがいいじゃない。
昼……ちょうどお昼時に病院から電話があって、それまでは一緒にいたわよ。ご家族、大丈夫だったのかしら」

「……大丈夫だったみたいス」

「なら良かったわね。お茶はまた改めて誘うわ」



……オレは、バカだ。

何が【他の男に走った】だよ。

やっぱり、ちゃんと聞くべきだったんだ。
思い込んで勝手に嫉妬して、最悪だ。

玄関に入り、乱暴にコートを脱ぎ捨てる。

「みわ!」

一部屋一部屋確認するのがもどかしく、つい大声で叫んだ。

しかし、その呼びかけに返答はない。

愚かなオレを嘲笑うかのように、沈黙が下りていた。




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