第60章 お互いの
「難しい事なんて何もいりません。
キミがさっき言ったことさえ分かっていれば、それでいいんですよ」
「ちょっとだけ……分かったかもしんねぇっス」
「……オイ黄瀬」
後ろの席から聞こえた声。
なんだかとても聞き覚えのある、声。
そうだ、この声は……
「笠松センパイ!?」
「オマエ……さっきから小っ恥ずかしい話をクドクドクドクドと……情けねーんだよ!
思ってる事があるんなら、本人に直接ハッキリ言いやがれ!」
「ボクも笠松さんと全くの同意見ですよ、黄瀬君」
まさかのダブルチームに、頰が引き攣るのが分かる。
さっきから事あるごとにガチャンガチャンいっていたのはセンパイだったのか。
「な、なんでこんなところにセンパイが……」
「いや、受験勉強の息抜きに散歩に出て来たら透明少年に会ってな……。
相談したいことがあるからこの店で待っていてくれって」
え……。
この店は、オレが選んだんだ。
黒子っちに促されたわけではない。
そんなに都合良く会えるわけがない。
「黄瀬君、黄瀬君がこのお店を選ぶのは、大体想像ついていたんですよ」
「どうしてっスか?」
「神崎さんに先日お会いした時に、キミが何かをゆっくり話したい時は必ずこの店に行くと言っていたからです」
……みわ、そんな事覚えていたのか。
「ここでキミとお喋りしながら食べたハンバーグがとても美味しかったと言っていました」
……。
「黄瀬君?」
「……みわに、会いてぇっス」
「そうでしょうね」
「黒子っち、ありがとう。
センパイも、ありがとうございます」
オレは、走って店を出た。
「俺がいる意味って結局なんだったんだよ
……黒子、お前は本当に神崎の事が好きだったのか?」
「はい。結構真面目に好きです」
「いいのかよ、黄瀬に譲って?」
「……黄瀬君は、大事な友達ですから」
「そりゃ殊勝なこったな」
「ただ、次もこんな事で悩むようなら……奪いますよ、なんとしてでも」
グラスの氷が溶け、この季節に似合わぬカランという涼しい音を響かせた。