第60章 お互いの
「それに……みわからタバコの臭いがして……会うって言ってた友達とも会ってなかったみたいだし……もしかしたら、他の男と会ってたのかもしんない」
オレに嫌気がさしたのかもしれない。
「だから、キミは大バカだっていうんです。
どうしてそう短絡的になるんですか。他の男に走るような原因があるんですか?」
「オレが……最近、みわに触れないようにしていたから……」
「どうしてですか?」
「求めすぎで……抱きすぎて……みわに……嫌われたくなくて」
「……そんなにするんですか」
「休みの日は朝から晩まで、とかっス」
ガシャンとまた後ろの席。
ちょっと落ち着いたらどうスか。
「触れなくなった、というのは神崎さんにも相談の上で、ですか?」
「そんな事言えるわけないじゃねぇスか……」
黒子っちが、ハァーと大きくため息をついた。
「黄瀬君、それはまさに独りよがり以外の何物でもありません」
「なっ」
「黄瀬君は、神崎さんがキミの事をどれだけ好きかを、知ってますか?」
「……そんなの……分かんねぇっス……自信、ないし」
「それは、神崎さんにも責任がありますね。
この面倒臭い黄瀬君を自信満々にするくらいじゃないと」
「面倒臭いって……」
「とにかく、気になる事があるなら直接聞けばいいじゃないですか。
それを足りない頭でウダウダウダウダ考えるから、訳が分からなくなるんでしょう」
「……確かに足りてねぇっスけど……」
「全く、あの"黄瀬涼太"がこんなにヘタレと知られたら、ファンが悲しみますね」
……こんな状態でもハッキリ言える事はある。
「……黒子っち、オレ、誰にもみわは渡したくない」
本音。
負けたくない。渡したくない。
「ボクも、大切な女性を簡単に手放すようなクソ野郎をライバルとして認識はしたくないですね。あ、バスケのライバルですよ」
「黒子っちは、みわの事が好きなんスよね」
「好きですよ。黄瀬君の話をする時の彼女が好きです。温かくて、可愛くて、とても愛に満ちている表情。キミが羨ましいです」
「……」
「ボクも、あんな風にひとりの人に愛されてみたいです」
「……」
「少しは分かりましたか?」
いつもの黒子っちだ。
強い目で、真っ直ぐ見つめてくる。