第60章 お互いの
「神崎さんがどれだけ嬉しそうにキミの話をするか、知らないんですか?
彼女がどれだけキミの事を心配しているのか、知らないんですか?
彼女がどれだけキミの事を好きか、本当に分からないんですか?
それが分からないというなら、キミは正真正銘の大バカです」
黒子っちの勢いに、何も返せないでいる。
こんな黒子っち、初めてだ。
「黄瀬君、なんとか言ってください」
「……分かって……るんス……みわが、オレのこと考えてくれてるって……」
「いいえ、キミはちっとも分かっていません」
黒子っちのまさかの猛追に、言葉が出てこない。
「分かっていたら、こんな風にはなっていません。
何故そんなに酷い事を言ってしまったんですか?」
それは、非常に言いづらい事。
でも、本人に聞いて貰わなければ意味がない。
「……黒子っちに……嫉妬して……」
黒子っちは、真っ直ぐで。
コート内ではあんなにも存在感を消せるのに、今はその瞳から目が離せない。
黒子っちは、バラバラになったキセキの世代のオレ達を変えてくれた。
その強さは、オレにはない。
「なんでボクに嫉妬する要素があるんですか」
「黒子っちは……きっと、みわの事をちゃんと優しく包んであげられる。話を聞いてあげられる。
……彼女の事も、変えてあげられる。
彼女の苦しみから……助けてあげられる」
「他には?」
「……本も好きだから、話も合うし」
黒子っちがハァ、と大きなため息をついた。
「分かりました。じゃあ、神崎さんはボクが貰います。ありがとうございます。
以前キミがボクに言ったように言いますね。
"神崎っち、ください"」
「な」
「そうでしょう? いいんですよね。神崎さんは、ボクが変えます。ボクが愛します」
まただ。
グルグルと、渦巻くどす黒い感情。
心臓から生み出されて、あっという間に全身を巡っていく。
醜くて、汚いヘドロのような膿のような気持ち。
「キミが彼女の手を離すというなら、ボクが代わりにその手を握ります。傷付ける事もあるかもしれない。でも、絶対に手は離しません」
「……黒子っちは、みわの事……好きなんスか」
「好きですよ」
間髪入れずに返ってきた返答に、驚く暇もなく打ちのめされた。